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【2日目】
4月2日、部主催の歓迎会が始まる。
広い店内の片隅にある小上がりを貸し切っての宴会だ。テーブルの並びは殆ど社内の島と変わらない、三つに分けられていた。多少席順は異なる、一番奥の上座となる場所に部長の金原友弥が座っていて、長島の右隣りに指導の月尾がいるのはいいとして、左隣りに庶務の石沢が来たことに長島は少なからず苛立ちを覚える。
なんとかどいてもらう口実を──辺りを見回すと、設計係の女子が固まって座っているのが見えた。同じ年増でもせめて見てくれがいい方がありがたいと口には決して出せないことを思いながら、にこにこと会話をしていた。
「月尾さん、俺、酌とかして回ったほうがいいんですか?」
「気にしなくていいさ。美人でスタイル抜群で胸の谷間が見えそうな服着てるって言うならまだしもぉ」
「ちょっと、月尾くん、それはセクハラよぉ」
石沢に叱られたが、月尾はぺろりと舌を出して誤魔化す程度に謝った。
(そもそも自分に自信がない女が、セクハラセクハラ騒ぐんだよな)
不穏なことよぎらせしまう、とにかくここにはもういたくないと思えた。
「あ、すんません、俺、トイレに」
おうよと月尾は送り出したが、石沢は「判る? ついていこうか?」などと余計なことを言うので、長島は慌ててそこから逃げ出した。
トイレは店の外の共有部だ。戻ると月尾と石沢が額を突き合わせて喋っているのが見えた。
(あとはお任せしまーす)
心の中で笑い、長島は設計係の集まるテーブルへ行く。
「あら、長島君」
市松が出迎える。
「(この人は、20代半ばってとこか。でも顔は好みじゃないんだなー)もう、なんで女の子がここに集まってるんですか、つまらないですよ」
正直に言ってそのテーブルに割り込むように座った。遠藤と藤代奈々の間だ。
「女子、少なすぎですよね」
「なんだかんだでステレオタイプなのよ、女は経理か庶務ってね。営業部や設計部には相当売り込まないと入れてもらえないわ」
係長の橋向が言う。
「(なるほどね、じゃあ総出の来週の花見が楽しみだ)でも皆さんも営業部じゃないですか」
「でも内の仕事しかしていないし、設計の補助だしね」
「橋向さんは、外で営業もしてたんでしょ?」
植木が言葉を添えた。
「(この人は20代も後半っぽいな、それはない)えー、美人で営業なんて、めっちゃ成績よさそう!」
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