ぷろろーぐ ふくしゅー

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 大陸間の戦争が長続きしたこの世界では、エルフやゴブリンなど、様々な種族が多様にあり、それぞれの種族や人々が、様々な国をつくり消えていっていった。  その消えていった大半の理由は二つある。食糧問題やら資源問題で対立した国同士の対立。そし、異種族間同士の潰しあいによるものだ。おとぎ話や、書物の話のように、悪い魔王が人々を懲らしめている実態は決してない。あるのは、ただ。欲望に塗れた者たちによる略奪と自己利益の追求。  その追及は、攻勢魔法の開発促進と武器の進化。そして、戦争経済の循環を作った。強力な武器があれば。誰でも人を殺せる魔法の弓矢だったリ、何でも切れる剣であったり。そんな物が蔓延った世界で、一番になるにはどの武器を使うべきか。  人間やゴブリンが殺せない敵がいたとしよう。それは現段階の武器、魔法をもってしても無理だ。………ならどうすればいいか。  彼らは、自分たちよりも明確に強い神様の力を借りたのだ。  神様そのものと言っていい武器を、一番強い勇者に持たせた。その者は八日間をかけて、十近い小国を滅ぼした。現段階でどんな武器を使っても倒せない化け物を倒したついでに……だ。その者は、神様の力に支配され。ついに、私たちの小国連盟の一般市民を襲うとした。     結果  その者はひき肉になった。  言葉通りの意味だ。肉をペースト状にされ、ハンバーグにでもされる勢いでミンチになった。………私の目の前で。  私が五歳くらいの時だ。  私の目の前には、兄さまがいた。今よりも明確には覚えていないけど、その頃はいつも通り優しかった気がする。その情景だけは、今でも覚えていた。兄さまはいつものナイフを構えていた。そして、左手には大量の血がついていた。そして、その血がついた手を気にするそぶりも見せず、耳元に手を当てて何かを言っていた。  私は茫然とその光景を見ていた。毎日お父様が顔をしかめていた人だったことは分からなかったけど、その人が、明確に私を狙ってきたのは分かっていた。私は疑問が浮かんだが、血に染まった兄さまはそんな私の様子に、困ったような表情を見せる。  「おい。こんなものを見るな。」  兄さまはそう言って、私の目をふさぐ。  短剣は投げ捨てていた。どこにあっても言葉さえあれば戻ってくる不思議な短剣を、兄さまは丁寧に扱った事は無かったけど。その時は、いつもよりも乱雑に放った気がした。  私はその光景に、疑問が浮かんだ。兄さまの態度じゃあない。もう少し根本的なことに違和感が残ったのだ。  そうだ。  何か違和感があると思ったら、これだ。  私の思い出の中にある兄さまは、今の兄さまと何の変りもなかった。私には成長過程があるのに、なぜか兄さまには成長過程が八年無かった。明確な記憶がないくせに、兄さまとに思い出だけは鮮明に覚えている 私は、それだけが確信できた。  「兄さま。」  「ん?」  「兄さまは、人間ですか?」    私は、そんな質問をした。  兄さまは少し黙って。そして、考えた様子を見せ。  「神様。」  そう答えた。  何時ものような複雑そうな笑顔で.  私は、目を覚ました。    朝方の太陽。  目を開けると、午前六時と書かれたスケッチノートが目の前に置かれている。上には細い指が見えるので、隣で寝ている隣人だという事は直ぐに分かった。わざわざ起こしに来たのだろう。  私は昔から朝が弱い。持ち前の低血糖の仕業か、それともほかの体質に由来するのか。私の性格に由来する事は無いから、そのどちらかになるけど。夜間。誰よりも早く寝る癖に起きるのが辛い程度には夜間的体質な私。まあ、それは昔からの付き合いなので、今更同行言える事ではないけど。  私は、起きようと睡魔に対しての自力での抵抗を試みた。だけど、ここ何年は友人に手伝ってもらっていたせいか、どうやら無理そうである。私は諦めて力尽きる。  「おーい。レミィ。寝坊助さーん。起きてくださいましー?」  愛用のベレー帽をかぶっているミレニア。人間とエルフの混合種族である彼女は、小さく手可愛らしく。いつもの姿も相まって、よく絵師と間違えられる。その方には、彼女の声を代用するかのように一羽の鳥が羽を落ち着かせていた。彼女の友人であり相棒のハルさんだ。    「ごめん、……手伝って。」  「”ほーい。じゃあミレニア。思いっきりねぇ!”」  私はあおむけになり、彼女に頬を見せる。  「”はい!じゃあいっきマース!!!さんにいぜーろ!!”」  その瞬間、彼女の細長い手が私の頬を思いっきり叩いた。  晴れた頬をさすりながら歯磨きをしている。  雷魔法を直接食らったように、頭の奥にジンジンと響いた一撃だった。毎度のことながらこうでもしないと目が覚めないというのは辛いものがある。具体的にどこが辛いのかというと、一番の親友が、最初は渋っていたくせに今はノリノリで手伝ってくれるところが。  こんなことをしないと目が覚めない自分の体質にも嫌気がさすとことはあるけど、まあそれは昔からなのであきらめている。自分の手をつねるのも、毎回友達にぶたれるのも。どちらも大して変わりないのではないか?そんなことを思うようになっているから重傷だ。  「”レミィさーん。支度は出来た?早く行くよ?”」  「ミレニア。ハウさん。今行くね?」  「”レミィさん。レミィさん。今日は大切な日だからね?早くしなよ?”」  「分かっているよ。時間見ているから。」  「”レミィさん。早くしないと遅れるよ?”」  「はいはい。」    せっかちなハルさんをよそに、私は歯磨きを終え、制服に着替える。  おとぎ話の十六人の悪魔。それをシンボルマークとしたその制服は、オリストリア大陸連盟通称”ヘリオロス”の訓練生の制服だ。様々な魔導士育成機関や、騎士の養成学校から選ばれた者のみが配属することを許されるこの組織は、私の好きだった人が所属している所でもある。  ヘリオロスがシンボルマークとしているおとぎ話の十六人の悪魔は、国や地域で英雄としての解釈もある。普遍的でどこにでもあるおとぎ話だ。十六人の英雄が、十六人の悪魔が。そのどちらかでもない何者かが。国を守り、侵入者を排除し。最後には、何物でもなくなった話。  「お待たせ。二人とも。」  「”本当にお待たせだよ。…じゃあ行こうか。今日も良き日にしなきゃね。”」    ヘリオロスも、そのおとぎ話の英雄の一人の名前だ。  彼は多くの書物をもって、悪魔ではなく英雄として語られるのが多い。貧しい人々に、自身が持つすべてのモノを投げ出し、弱きを助け強きものを挫く。そんな彼は、十五人の仲間を連れ。時には悪魔となって人々に試練を残し、英雄となって人々を助け。すべて、人のために導く存在になった。  今日は、そんな彼が死んだ日だ。  彼の遺志を継いだシンボルマークを付けた私たちにとっても特別な日である。訓練生である私たちは、文字通り、一年の期間を訓練生として過ごし、各能力によって所属を決められる。剣が優秀なものは是沿線を食い止める部隊に。魔法が優秀なものは、前線のサポート部隊。様々なものが、個々の力を十二分に発揮させる事を最重要としている。  「”レミィさん。レミィさんは、やっぱり偵察部隊に入るのかい?”」  「ん。多分ね。私目と耳はいいから。」  「”じゃあハルさんたちもそこがいいな。隠密は苦手だけどね。ハルさんたち。”」  「それは上の人が決める事だからね。私達にはどうしようもないよ。」  「”いやいやレミィさん。諦めるのは時期尚早だヨ?”」  「……でも、一緒がいいな。」  「”そうだね。ハルさんたちもそう思っているよ。”」  戦場は遊び場ではないのは分かっている。  だけども、一年を通してできた仲間だ。ミレニアだって、ハルさんだって。__私の親友には変わらない。そんな友達のそばを離れたくない。もしその瞬間があり。私はそれを知らずに生きていたとしたら。………それだけは一番嫌だ。  「”レミィさんは、ハルさん達が居ないと駄目だからね。”」  「そんな事は無い。」  「”ほんとうかな?”」  ミレニアは、感情を出す事が出来ない。  正確に言えば、表情を動かす事。そして、言葉を話す事が出来ない。いつもスケッチブックを持っているのはそのためだ。  第二次エンデルギア攻防戦。乾燥地帯が多いノールワイズ地方で、希少な水源を管理運用していたエンデルギア連邦は、水源を巡って、周囲の国や自身の内政国同士で戦争が頻発しており、その様相は火薬庫と言っていいほど荒いモノであった。  当時政権を握っていたリチャード二世は、戦争を早期決着させるためにとある植物の力を借りる。カスミと呼ばれるその植物は、幻覚作用を持った真拓として使われており、当時、水資源だけでは経済活動が厳しいと判断した彼らにとって、政権を運営する上のもう一つの資金源であった。  カスミは、水と同じように、熱を与えると蒸発してしまう。その煙には、幻覚作用のほかに、口内内部に侵入すると、体の内側を焼いてしまうという特色もある。焼けただれるのではない。文字通り、口内を焼くのだ。  呼吸器官を焼かれたものは、大半が死ぬ。しかし、生きてしまった人も確かにいる。目の前の彼女がそうだ。家族とともに避難していた彼女は、自国に落とした大量のカスミを使った生物兵器に巻き込まれ。彼女だけが生き残った。  彼女の家系は、代々優秀な魔法使いで、それは彼女自身も同じである。彼女が助かったのは、彼女自身の両親が、自分の喉が焼かれながらも、娘に魔法をかけたから。その魔法は、完全にカスミの効果を打ち消したわけじゃあないけど、彼女だけが助かる要因につながった。  彼女にとって、呪文は呪いだ。  だからこそ、のどが治った今でさえ彼女は言葉を発しない。焼かれた情景が浮かぶから。あの時の両親を思い出してしまうから。  彼女は感情を捨て、呪文を捨てた。言葉で発現するものをすべて。  彼女にはもう一つの特色がある。自分を焼いて。すべてを焼いたカスミの特色。霧状の可燃性ガス。喉を焼くそれを、彼女は使えるようになってしまった。私と違い、優秀な彼女は、それを自在に操る事が出来る。    「”暗殺部隊とかは絶対やだからね。ハルさんたちは。”」  彼女には選択がなかった。  知りあいの伝を手繰り好、自分が生き残るために入隊した。私とは違い不純なんてない理由。  宿舎を出ると、同じ制服に身を包んだ何人かの訓練生が同方向に歩いている。その中には顔見知りが何人かいたので軽く挨拶を済ませ、ハルさんと下らない話で盛り上がりながら、そびえたつ門を通り抜けた。ヘリオロスの訓練機関。今日はここを旅立つ日。  ああ。そうです。自己紹介が遅れました。  私は、レミィ・アーカイブ。アーカイブ家のただ一人の生き残りです。  兄さんと慕っていた彼に皆殺しにされた私達ですが、何故だか私だけは生きておりました。なぜ私だけを生かしておいたのか。彼がなぜ、私たちの家を襲ったのか。私は理由を探しましたが、見つけることは出来ずにいました。  私の身柄は、私の家の分家であるエーデル家に養子として引き取られました。だから、今の名前はレミィ・エーデルとなっております。  彼とは一度も会っていません。……ですから、こうして夢をかなえる事にしました。私が知らない、あの夜のことを詳細に知るために。そして、敵討ちをしたいという思いがあります。私はあの夜の事だけは忘れる事がないのです。    「”レミィ”」  「なに?」  「”僕らはずっと一緒だ。何があってもね。”」    たとえ命を閉ざしても。  そう思っている私の心を、彼女達だけは止めようとします。…それは嬉しくもあり、謝りたい気持を持させるのです。
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