ぷろろーぐ ふくしゅー

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 ヘリオロスの養成機関では、まず初めに各小隊が行う戦術の授業が行われる。どの部隊がどのような役割を担っているかわからなければ、自身の役割に責任が出ないという方針からだ。  私が所属するであろう偵察部隊は、その名の通り、敵戦力の偵察、情報の奪取を目的とした部隊だ。敵と交戦をするための部隊ではなく、敵を知り、対策前の情報を持ち帰ることを任務としている部隊。殺すことが目的ではない。だから私はこの部隊を志願した。  「レミィ・エーデル!」  「はっ。」  第3小隊と書かれた紙を、ハルさんはぴょこぴょこと私に見せる。  扱いとしては、彼女の使い魔程度にしか思われていないハルさんはとても自由なものだ。偵察部隊に入隊したらしく、頑張れーといった声援を送る。そんな声援に意味はないけど、私は姿勢を崩さず、優等生らしい振る舞いで答える。  十年以上剣に費やした。  その結果。天才たちには勝つことは出来ないまでも、ただ一つのことで、優秀であると言われるまでに成長した。剣は私を見捨てなかったし、諦めなかった努力は結果に結びついた。…だけども。今でも、わたしは自分が優秀であると思うことが出来ない。  「貴官は最後まで優秀だったな。第4偵察小隊だ。」  「了解しました。プロフェッサー。」  敬礼をし、踵を返すと。ハルさんはしょんぼりとした顔を見せる。こればかりはしょうがない。だけども同じ所属内だ。別な舞台で離ればなれになるよりはましな結果だ。修了証書とともに渡された配属先の書かれたこの髪は、正式に私たちが偵察隊に入隊したという証でもある。私は初めて実感が湧く。    「”緊張したねぇ。ま、いつもどおりかな?”」  「……。」    隣りで話すハルさんの言葉を、うなずくことで返す。  最後に、すべての卒業生が証書を受領したのち。訓練校の校長のあいさつで締めくくる。先程まで卒業証書をせわしなく手渡ししていた、第三情報統括中隊の中隊長であるアル・リデア大尉。彼は訓練生の全責任者であり、この場所の校長のような人。  情報統括中隊は、舞台における作戦指示、立案。その他もろもろを考慮する中隊規模の隊だ。前十五ある中隊の中でも、指揮系統として重役を担っている。  そんなとても偉い人が、全訓練生に向けて祝辞を言おうとした時だ。  「あ~~。プロフェッサー?もういい?」    一人の男が壇上に躍り出る。  その男は、中隊長同様の制服に身を包み、見覚えのあるモノをぶら下げていた。  複数あるポーチ。そして部隊章は見覚えのあるモノ。ヘリオロスとはいっても、部隊章は部隊によって少し違う。ヘリオロス自体、全十五の中隊規模の戦力で活動しているのだが、部隊章はヘリオロスのマーク。そして、部隊マーク。部隊番号で統一されている。  そしてそのマークには、ヘリオロスの紋章はなく、ただ、四つのナイフが交差をしているシンプルなもので。それは、”私が探していた兄”と同じマークのモノだった。  四本のナイフは、互いを守るように。互いの死角に歯を突き立てる。それは、信頼であり重責。一つでもかけてはならないという誇り。    「……ノイズ・リーダー。」  「はいはい。ノイズリーダーでーす。趣味は謀略、作戦指揮に謀(はかりごと)。よろしくね?」  「貴官の紹介はまだのはずだが?」  「だってプロフェッサー。長ったるい話にしちゃうでしょ?一層頑張っていただきたい。ってだけ言えばいいのに、余計な言葉った付け足されるのは毎年ウンザリなんだよね。ってことで、ここからは俺が司会を務めるよ。……皆さんよろしく!」  「超絶ウザイな。」  「えー?ギルティほどじゃあないよ。」  「ギルティ言うな。…。俺は第五特殊中隊の。」  「ギルティだよ。みんなよろしくねぇ。」  その人は、とても嫌そうな顔で壇上に上った。  その聲は、まさに私が知っている人でした。見覚えのある服装に身を包んだその人は、記憶の中の面影と変わらずな姿をしていた。  どうして?  私の頭は混乱する。今まで姿を見せたことは一度もないのに、なぜこんな所にいるのか。私は、動揺を隠せず、ハルさんの心配そうな声で我に帰る。少し大きめの深呼吸をすると、周りの様子もどうやら騒がしくなっていることに気づいた。  「さて、訓練生諸君。君たちは十日後には各部隊に配属される。……だがしかし。僕らとしては、ただのひよっこを舞台に入れるのは好ましい事じゃあない。君たちも聞いていると思うけどね。世の情勢は悪化の一途をたどっている。……そして近々、連合を脅かそうと考えている国が出てくる。っていううわさも出るくらいだ。そのために、君たちの実力を見せてもらいたい。」  「……これから一時間後に、急遽だが五対一の試合を行う。こちらで選んだ諸君ら訓練生の代表と、我々の試合を申し込む 。試合結果は、全訓練生の成績として扱うので、代表者は出来る限り頑張れ。……ああ。そうそう。代表者諸君の発表だが。……俺が読んだ方がいいのか?」  「あ~。んじゃあ僕が。ALPHA 四番 十二番 十八番 BUTTER 十一番 十二番。」  どういう事?周りの賀谷は大きく鳴っていくのに、教職員たちはすました顔で立っていた。…事前にこうなることを予測していたのか。……聞かされなかったのは、どうやら私たち訓練生だけらしい。  ハルさんも混乱しているらしく、感情を出さないミレニアの横でどういう事だと聞いてくる。でも自分も分かっていなくて、これが教職員しか知らされていないという事しか知らない私は、分からないと答えるしかなかった。  「お前ら。死ぬ気で戦えよ?」  「そーだよ?死ぬ気でね?じゃあないと、怖いお兄さんに怖い事されるからねぇ?」  「お前みたいにサディストじゃあいけどな。」   「まあ、マゾヒストだからね。」  「マゾでもねえよ。特殊な性癖は持ち合わせないわ。」  「ああ。そうそう。武器は何でもいいよ?こちらは素手だけだ。まあ、精々頑張ってねぇ。」  「人ごとに用に言うな。…お前、変わるか?」  「嫌だね。やらなきゃいけない仕事山済みだし。つーかこれ君の仕事でしょ?自分の仕事は自分でしなきゃ。」  「お前のやらなきゃいけない事でもあるんだがな。」  「違いない。訓練生諸君の奮闘に期待する。」  この養成学校は一クラス二十人。それが二クラスあり、それぞれはALPHA BUTTERというクラス名で分けられている。私の番号はそこに入っていない。……しかし、ハルさんは焦ったように声を上げる。私の友人であるミレニアは、その番号に含まれていた。  私は友人に小声で言葉をかけた。  何も答えない彼女だが、彼女とハルさんは心がつながっている。彼女の取り残したような儚い心情が、ハルさんには分かっている。ハルさん曰く、ミレニアは動揺しているようだ。彼女はあまりそのようなことが好きじゃあない。だけども、彼女の心臓は彼女自身を動かせるほどに強いモノではない。今の彼女を動かしているのは、別な何かだ。  「大丈夫?」  「”…この前のようにはならないから、大丈夫だと思う。”」    ミレニアは心優しい。  だが、ミレニアに取りついている何かは、ミレニアの意志に反して好戦的だ。彼女は彼女の体を動かしている”何かを”止められないことが怖い。それが暴走した事件は、学校を卒業した時点でもう三回目だ。彼女を乗っ取っている何かは、普段の様相からはおとなしいモノであるのだが。  舞台上を去った兄さまの背中を見る。  過ぎ去ったあの光景を見ながら、それでもその敬称を使ってしまう私は、やはりあの日から何も変わっていない。教官たちの、休めの号令とともに式は終わり、呼ばれたものが共感の指示で送られる。どうやら卒業生だけがその試合を見れるらしい。普段、訓練任務で使われる施設に集合せよと声がかかった。  行ってくる。それだけを零した友人に対して、頑張れと言葉を吐いた。  ハルが代わりに応える。私はそれに手を振って答えた。  
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