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紺碧の空に満天の星が見えた。
東の空に輝く赤い星を見失わないように、マスズは海の波にもがいた。
大波がやってきて、少女の体を暗い夜の海に引きずりこもうとする。
塩辛い海水が口の中に入ってきた。
ああ、本来ならば今夜は海水ではなく祝いの酒を飲んでいたはずだ。
マスズは先週、初めて月のシルシがきた。
腹に鈍い痛みを伴う月のシルシがようやく終えると月の家から解放され御祓を終えて数日、親父殿から従兄弟と婚礼をあげる。と聞かされた。
今夜が婚礼の宴のはずだった。
だった。と、言うのは従兄弟と婚礼なぞ嫌だ!と逃げ出したのだ。
再度、大波がマスズの体を押し流す。
海に引きずりこまれる度に浮上し、赤い星を探した。
(私は安曇だ。安曇の者は海と親しい。)
しかし、今宵の海はマスズを嘲笑うかのように翻弄する。
従兄弟が嫌で結婚を逃げたわけではない。好きかと問われたらそれまた頷けない。
ただ、周囲に言われるまま結婚をすることが、どうしてもマスズには耐えられなかったのだ。
大波がマスズを飲み込んだ。
小さな少女の体が海の底に沈む。
海の底に明かりが見えた。
煌々と焚かれた篝火が大きな王宮を照らしだしていた。
ごぽり、とマスズの口から空気の泡が漏れた。
今、目の前にあるものが信じられなかった。
大きな赤い柱に緑色の瓦屋根。
昔、オババ様が言ってたな。
シカウミの下には龍の都があると。
ごぽり、と最後の肺の空気を出すとマスズの意識は途切れた。
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