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浜に少女が打ち上げられた。
年の頃は15くらいか、よく陽に焼けた肌にすらりとした長い手足、茶色の髪はひとつにまとめ木のかんざしで小さな団子を作っている。
服装はここいらでは見ない服だ。
膨らみを覚え始めた華奢な胸には白と朱色の布が巻かれ、筋肉質な腹が顕になっており、腰には朱色の巻きスカートを巻いている。
手と足には鞣(なめ)した鹿の皮が包帯のように巻かれてある。
おそらく、手と足を保護するためのものだろう。
「ねぇ、起きて」
マスズを揺り動かすのは、まったく正反対の少女だ。
年の頃はマスズと同じにみえる。真珠のような白い肌に腰まで垂らした長い黒髪。
麻で織った白い貫頭衣に同じく白い帯だ。
「起きて」
数度かの揺り動かしに、マスズはパチリと目を覚ました。
褐色の大きな瞳が目の前のたおやかな美少女を映した。
美少女の紺色の瞳には驚いた自分の顔が映りこんでいる。
「大丈夫?」
「ここは…?」
マスズは、がはりと起き上がると辺りを見渡した。
白い砂浜と青い海が視界に広がっている。
あと、美少女。
「ここは、イズモよ。貴女はどこから流れてきたのかしら?」
美少女の言葉にマスズは一瞬、理解が及ばなかった。
「イズ、モ?」
「ええ。」
マスズはおもむろに振り返り背後にある海を眺めた。
そして、はっとしたように自分の体を撫で回す。
(かんざしも無事、首飾りもある。)
首飾りを握りしめ、ほっと安堵の息を漏らした。
自分の持ち物はちゃんとあるようだ。
マスズは美少女に向き直ると、胸に手を置き一礼した。
「私はナから来たマスズと申します。」
マスズは、あえて安曇の名を伏せた。
ナの国の名に美少女は目を丸くした。
「ずいぶんと遠くから流されてきましたのね。」
美少女は小さく笑うと
「私は、巫女のヤエと申しますの。」
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