4人が本棚に入れています
本棚に追加
第一章 訪問者 場面一 転校生(二)
「あそこ、クラブも確かすごいぜ。テニスとか陸上とか全国レベルのはず」
「いつも思うんだけど、何でそんなに色々知ってるんだよ。別に陸上部でもテニス部でもないのに」
「それは単なる趣味だけど。な、すっげえ成績よかったって噂なんだぜ。お前とどっちが上かな」
「多分、向こうのほうじゃないのか? 上ノ京高校って名門だし」
思ったままを答えると、岩城は苦笑する。
「相変わらず、張り合いねーのな。野口とか、絶対ピリピリするぜ。こんなとき、編入試験満点の理由ありの転入生とか、ドラマでありそうじゃん?」
「ドラマというよりマンガだよ、それじゃ。大体、校内順位が上がった下がったって、今頃言っててどうするんだよ。野口だって、別に推薦入試を狙ってるとかいうわけでもないだろ?」
「そりゃまあ、理屈はそうだけどさ。やっぱ、顔が見えるライヴァルって違うじゃん。たとえ校内でも、一位が二位になった、三位が四位になった、となりゃ、心中穏やかじゃないし」
「そんなものかな……」
「絶対、そんなもんだって。大体、親がうるさいじゃん。お前、どっか抜けてるよな。大体、お前ぐらいだぜ。進路調査票白紙で出しつづけてる奴。一体どんなとんでもないところ狙ってんだ、この秘密主義」
「……」
祐一は肩を竦める。話が一区切りしたところで、二人はそれぞれ勉強に戻った。そういえば、七月にはまた三者面談がある。そのことを思うと、祐一の気持ちはわずかに重くなった。
最初のコメントを投稿しよう!