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第一章 訪問者 場面三 委員長
「何か、すごく場慣れしてる感じだな。そう思わないか?」
休み時間に、岩城が感心したように言った。
「そうだね。昨日もぼくが中庭にいたら、いきなり声かけてきたし」
「それに、全然関西なまりがない」
「転校慣れしてるのかな」
祐一は転校生に眼をやったが、すでに輪が出来ている。「よろしく」されたとはいえ、特に声をかける必要もなさそうに思えた。結局何事もなく六限までの授業が終了し、清掃当番は清掃に、クラブ所属者はクラブに、そして祐一もその一員である帰宅部は帰り支度にとそれぞれに動き始めた。
そこへ、安人のほうから声をかけてきた。
「いーんちょ」
祐一は手を止め、苦笑した。
「内原だって」
「委員長だったんだ、おたく」
「うん、一応。よろしく、って言われたのはいいけど、別に必要なさそうだったから行かなかったよ」
「いや、そんなのは全然」
「全然関西なまりないんだね」
「土地の人間じゃないんだ。生まれは名古屋、小学校で二年間山口にいて、名古屋に戻って、で、小学校六年から中学一年まで横浜、それから京都、で、今回静岡に来たわけ」
祐一は面食らった。
それは転校慣れもするだろう。
「すごい経歴だね」
「はは、おかげさんで」
「で、校内案内しようか?」
「ああ、それも内原がよかったら。あのさ、ちょっと時間あるときに授業の進み具合とかざっと教えてくれないか? 忙しかったらノート見せてくれるだけでもいいけど。仲井とか横田とか、放課後はクラブで忙しいってさ。幸い、学年首席の委員長さんがクラブやってないって聞いたから」
すでに気軽な調子でクラスのメンバーの名を呼んでいる。本当に転校慣れしているのだろう。
「ああ、そうか。じゃあ……どうしようかな、明日まとめて持ってこようか?」
「内原、家どこ?」
「ここから歩いて十分ってとこかな。友が丘……って言っても判んないか」
「歩いて十分?」
安人は、少し考える様子を見せた。
「なあ、今日ちょっと時間もらえないかな。見せてもらいに行っていいか? 持ってきてもらうよりそのほうがてっとりばやいし」
祐一はわずかにためらった。安人はその空気を敏感に察したらしい。
「都合悪い?」
「いや、別にかまわないよ」
祐一は気を取り直して言った。
「じゃあ、一緒に帰ろう」
「おう。よろしく」
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