第一章 訪問者 場面四 帰り道(一)

1/1
前へ
/215ページ
次へ

第一章 訪問者 場面四 帰り道(一)

 簡単に校内を回ってから、二人は連れ立って門を出た。安人は自転車、祐一は徒歩だったので、安人は自転車を押して歩くことになる。安人の歩くペースはやや遅く、祐一はそれに合わせた。 「内原って、首席なんだってな」  安人の言葉に、祐一は苦笑した。 「誰に聞いたのか知らないけど、いつもってわけじゃないよ」 「でも、大体総合の一位はお前だって聞いたぜ」  呼びかけが「おたく」から「お前」になる。不思議に馴れ馴れしい印象は受けなかった。 「そういう君のほうこそ、ずいぶん成績よかったんじゃないのか? そんな話聞いたんだけど。上ノ京高校って名門だし」 「さあ、編入試験は合否しか教えてくれなかったから、どうなのかな。だけど、俺結構教科によって出来不出来の差が大きくてさ。理系と文系でえらく差があるんだ」 「ふうん……。クラブとかは、何かやってたのか?」 「天文部に入ってた。もっとも、あんまり真面目な部員じゃなかったけど」  祐一は少し意外な気持ちになる。 「ふうん? ずいぶん日焼けしてるから、体育会系かと思った。うちでも入るの? まあ、もうあんまり時間もないけど……あれ、どうかした?」  安人の表情にどこか感心したようなものが現れたので、祐一は戸惑った。それに気づいたように相手は微笑し、軽く肩を竦める。 「いや、鋭いなと思って。じつはちょっと陸上もやってたことがあってさ」 「そうなのか。かけもち?」 「いや。陸上辞めて天文部に入ったんだ」 「何だか全然つながりがなさそうなのに、不思議な取り合わせだね」 「まあ、そうだろうなあ」  安人の口調は相変わらず軽かったが、どこか歯切れの悪いものも感じられる。祐一は話題を変えることにした。
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加