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第一章 訪問者 場面四 帰り道(一)
簡単に校内を回ってから、二人は連れ立って門を出た。安人は自転車、祐一は徒歩だったので、安人は自転車を押して歩くことになる。安人の歩くペースはやや遅く、祐一はそれに合わせた。
「内原って、首席なんだってな」
安人の言葉に、祐一は苦笑した。
「誰に聞いたのか知らないけど、いつもってわけじゃないよ」
「でも、大体総合の一位はお前だって聞いたぜ」
呼びかけが「おたく」から「お前」になる。不思議に馴れ馴れしい印象は受けなかった。
「そういう君のほうこそ、ずいぶん成績よかったんじゃないのか? そんな話聞いたんだけど。上ノ京高校って名門だし」
「さあ、編入試験は合否しか教えてくれなかったから、どうなのかな。だけど、俺結構教科によって出来不出来の差が大きくてさ。理系と文系でえらく差があるんだ」
「ふうん……。クラブとかは、何かやってたのか?」
「天文部に入ってた。もっとも、あんまり真面目な部員じゃなかったけど」
祐一は少し意外な気持ちになる。
「ふうん? ずいぶん日焼けしてるから、体育会系かと思った。うちでも入るの? まあ、もうあんまり時間もないけど……あれ、どうかした?」
安人の表情にどこか感心したようなものが現れたので、祐一は戸惑った。それに気づいたように相手は微笑し、軽く肩を竦める。
「いや、鋭いなと思って。じつはちょっと陸上もやってたことがあってさ」
「そうなのか。かけもち?」
「いや。陸上辞めて天文部に入ったんだ」
「何だか全然つながりがなさそうなのに、不思議な取り合わせだね」
「まあ、そうだろうなあ」
安人の口調は相変わらず軽かったが、どこか歯切れの悪いものも感じられる。祐一は話題を変えることにした。
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