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第一章 訪問者 場面四 帰り道(二)
「よく知らないんだけど、上ノ京高校って旧いのか?」
「いや、霧島高校に比べりゃ全然。何せ、創立が明治時代までさかのぼるんだって?」
「まあ、ぎりぎりだけどね。今年で創立八十八年だから、一九一〇年創立か。一九一二年から大正時代になっちゃうだろ」
安人は大仰に頭を抱えてみせる。
「……悪い、頭痛が。歴史のお勉強は勘弁してくれよ」
その仕草がおかしかったので、祐一はちょっと笑った。
「苦手?」
「現国と歴史は天敵」
「選択は?」
「地理と日本史。まあ、地理はまだ何とかなるんだけど」
「じゃあ一緒だ。ぼくは地理よりは日本史のほうが好きだけどな」
そんな他愛のない話をしながら歩くうち、「内原」と表札のかかった家に着いた。家の造りは和風で、門から玄関までは砂利が敷き詰められている。豪邸というほどではないが、かなりいかめしいというか、どこか格式ばった雰囲気があった。
「じゃあ、ちょっと上がっていって」
「助かるよ」
頬笑んで安人は応じる。木製の格子のついた引き戸の鍵を開け、祐一は安人を中へ通した。
「お邪魔しまーす……って、誰もいないみたいだな」
「うん。ちょっと出かけてる。こっち」
祐一の部屋は二階にある。安人は祐一に続いて入り、物珍しげに周囲を見回した。
「へえ、結構広い」
「そうかな」
祐一の部屋は八畳のフローリングで、そこにベッドと学習机、それに本棚とクローゼットがひとつずつ置いてあるだけだ。
「あ、物が少ないのか。……きちんと整理してあるし。俺の部屋とえらい違い」
「そうなのか?」
「俺の部屋、あんまり床が見えないから」
「何畳?」
「六畳」
「ここ、八畳あるからさ。二畳の差は大きいかも」
言いながら祐一は鞄の中と学習机の本棚から必要と思われるノートや教科書、問題集の類を抜き出し、机の上に積んだ。
「好きに見ててくれて構わないから、とりあえず机使っててよ。コーヒーと紅茶とどっちがいいのかな」
「あ、お構いなく。とか言いつつ、コーヒーひとつ。ブラックで」
「判った。待ってて」
祐一はちょっと微笑してみせてから、部屋を出た。
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