第一章 訪問者 場面四 帰り道(四)

1/1
前へ
/215ページ
次へ

第一章 訪問者 場面四 帰り道(四)

 安人は椅子を回転させ、本棚に眼をやる。 「ところで、さっきから気になってたんだけどさ」 「何?」 「お前、ひょっとするとすげえ乱読だろ」  祐一は苦笑する。 「この本棚?」 「英米にロシアだろ、その辺に日本文学、と歴史物か。で、何か植物図鑑とか鳥類図鑑とかがあって、旅行のガイドブックがずいぶんあるな。二段目あたり、あれ哲学書じゃねえの? それからエッセイがあって、何でその横に電気回路の本とかあるんだ? あと下のほうは写真集とか写真の本、って、何かすごいラインナップなんだけど」  すらすらと読み解いたところを見ると、理系一辺倒に思えた今までの会話とは裏腹に、案外とこの転校生は本好きなのかもしれない。  祐一は微かに苦笑を浮かべた。 「全部がぼくの趣味じゃないんだ。両親とぼくの三人分が一緒になってるから」 「ああ、なるほど。確かにこの本棚結構大きいもんな。まとめて置いたらこうなるわけだ」 「まあ、そんな感じかな」  そう答えたとき、部屋の扉を軽くノックする音がする。 「何?」  祐一は扉に視線を向けた。当然のことながら、相手は判っている。 「入ってもいい?」 「構わないけど、クラスの人が来てるんだ」 「判ってるわよ」  勝気な印象を与える声と共に、ガチャリと扉が開く。声の主は、肩にかかるストレートの髪をゴムで無造作に一つにまとめ、服装はTシャツにジーンズというラフな格好だった。 「靴があったし、声がしたし」 「そう」  祐一は軽く頷く。闖入者は安人に眼をやり、ニコッと笑った。
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加