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第一章 訪問者 場面四 帰り道(四)
安人は椅子を回転させ、本棚に眼をやる。
「ところで、さっきから気になってたんだけどさ」
「何?」
「お前、ひょっとするとすげえ乱読だろ」
祐一は苦笑する。
「この本棚?」
「英米にロシアだろ、その辺に日本文学、と歴史物か。で、何か植物図鑑とか鳥類図鑑とかがあって、旅行のガイドブックがずいぶんあるな。二段目あたり、あれ哲学書じゃねえの? それからエッセイがあって、何でその横に電気回路の本とかあるんだ? あと下のほうは写真集とか写真の本、って、何かすごいラインナップなんだけど」
すらすらと読み解いたところを見ると、理系一辺倒に思えた今までの会話とは裏腹に、案外とこの転校生は本好きなのかもしれない。
祐一は微かに苦笑を浮かべた。
「全部がぼくの趣味じゃないんだ。両親とぼくの三人分が一緒になってるから」
「ああ、なるほど。確かにこの本棚結構大きいもんな。まとめて置いたらこうなるわけだ」
「まあ、そんな感じかな」
そう答えたとき、部屋の扉を軽くノックする音がする。
「何?」
祐一は扉に視線を向けた。当然のことながら、相手は判っている。
「入ってもいい?」
「構わないけど、クラスの人が来てるんだ」
「判ってるわよ」
勝気な印象を与える声と共に、ガチャリと扉が開く。声の主は、肩にかかるストレートの髪をゴムで無造作に一つにまとめ、服装はTシャツにジーンズというラフな格好だった。
「靴があったし、声がしたし」
「そう」
祐一は軽く頷く。闖入者は安人に眼をやり、ニコッと笑った。
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