真実だけでは

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ママがお仕事に行く支度をしていると家の電話が鳴った。 ママはいつも電話に出ない。 留守番電話につながる。 「マリ?俺だけど。どうしたんだよ。連絡しても返事もくれないで。 お前もやっぱり金目当てだったのか?俺の事、捨てる気なのか?」 いつものタカさんの声だけど、いつもより元気がなかった。 りいはな「ママ。タカさんだよ」と言ってみる。 ママはちょっと怒った顔をして 「聞こえてる」と言った。 そしてりいなの肩を持って言った。 「もしもタカさんにどこかで会って話しかけられても、知らない人のふりをしなさい。ママの事聞かれても、知らないって言いなさい。 あんまりしつこかったら、大きな声で助けてーって叫びなさい」 ママの迫力に押されて、りいなはうんうんと大きく頷いた。 そしてママは言った。 「正直に生きてたって、腹は膨れないからね」 次の日の夜。 「りいな、準備出来た?今日はサトルさんだよ」 「うん」 「タカさんの名前、出すんじゃないよ」 「うん」 玄関から出ると、そこにはピカピカの車が停まっていた。 「りいなちゃん、こんばんは」 りいなは今日もママと一緒に仕事をする。 りいなの仕事は女優だから。 「こんばんは」 りいなの顔、ちゃんと可愛い? りいな、何にも失敗してない? 車は走り出した。 後ろの座席に乗ったこの四角い箱はきっとりいなへのプレゼント。 素知らぬふりをして、気づかぬふりをして。 そうして今日もりいなは生きていく。 「正直に生きてたって、腹は膨れないからね」 ママの言葉が、頭から離れない。
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