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「え、猫?」
「早く! その猫、追い払ってくれよ!」
茶髪男が私の後ろに隠れようとする。かなり必死に。足元の猫は毛を逆立たせ、低い声でうなりながら、こっちをにらんでいる。
この人、猫のこと怖いのかな? ヤンキー三人相手に、喧嘩していたくせに?
「あ、あのぅ、猫ちゃん?」
私はにっこり、猫に微笑みかける。しかし猫は素早く私の後ろに回り込み、茶髪男にとびかかった。
「わぁ! やめろっ! おいっ、早く追い払え!」
猫は茶髪男の背中に爪を立て、おんぶするみたいにしがみついている。茶髪男が暴れても、全然離れようとしない。
「あっ、えっと……猫ちゃんっ、これ食べる?」
私は咄嗟に持っていた焼き芋を差し出した。男の背中にくっついている猫が、ちらっと私のほうを向く。
「こ、こっちにおいで。お芋、あげるから」
ゆっくり後ずさりしながら焼き芋を見せると、猫が背中から飛び降りた。そしてそろりそろりと私に近づいたあと、ぱっと焼き芋に飛びつきそれを口にくわえる。
「あっ」
それは本当にあっという間のできごとだった。猫は私の焼き芋をくわえたまま、ものすごいスピードで神社のほうへ走り去っていった。
ああ、私の焼き芋……さようなら……
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