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「紅子ちゃんとあっちの恋野先輩って付き合ってるの?」
あっちの恋野先輩っていうのは、生徒会の恋野先輩じゃないほうって意味だろう。
「ううん。付き合ってないよ」
その質問はもう何度も受けている。新学年になってからは、飽きるほど。だから答えるのにも、いい加減飽きてきた。
「でも仲いいよねぇ。いいなぁ、春菜ちゃんも紅子ちゃんも彼氏がいて」
「だから彼氏じゃないって」
葉月はちょっと天然だ。お前が言うなって恋野くんに言われそうだけど。
「葉月はいないの? 好きな人」
春菜が聞いた。私はどきっとする。
「えっ、い、いないよぉ、私はっ」
葉月が両手をブンブン振って否定する。頬がほのかに赤く染まっている。
「絶対いるでしょ。わかりやすいなぁ、葉月は」
春菜がくすくす笑う。
「ねぇ、今日家庭科で作るシュークリーム、その人にあげちゃえば?」
「え、ええー!」
葉月が大げさにのけぞって、驚いている。
「学校で作ったシュークリームを好きな人にあげると、二人はくっつくって噂だよ」
「え、そんな噂あるの!」
今度は私があわてて聞いた。
だってシュークリームなんかで二人がくっついちゃったら、縁結びの神さまの出番がなくなっちゃう。
「うん。だから今日はみんな張り切ってるんだよ。紅子もあげれば? あっちの恋野先輩に」
春菜がにっこり私に微笑む。
「や、私はいい。は、葉月は?」
私はおそるおそる葉月に聞いてみる。あげるって言ったらどうしよう。
そんな私の前で、葉月は静かに首を横に振った。
「私も……いい」
なんだかすごく哀しそうに微笑みながら。
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