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「あっ」
その時、葉月の短い声が聞こえた。見ると葉月の指先から、赤い血がにじんでいる。
「大丈夫? 葉月!」
「うん。平気。カッターで切っちゃったみたい。ドジだね、私」
「待ってて、いま絆創膏出すからね」
私はカバンをごそごそとあさる。私のカバンの中にもシュークリームが入っている。
「紅子ちゃん……」
絆創膏を取り出した私に、葉月がぽつりと言う。
「私ね、何度もあきらめようとしたの。私の好きな人は、私が好きになっちゃいけない人だから……」
私の胸がぎゅうっと痛くなる。
葉月はほんの少し笑って、誰もいなくなった図書室で、私にせつない想いを打ち明ける。
「彼ね、私の幼なじみなの。十歳も年上なんだけど」
「えっ」
それは知らなかった。
「彼、すごくやさしい人でね。ずっとお兄ちゃんみたいに思ってたんだけど、いつの間にか好きになっちゃってて……でもあきらめなきゃだめだ。この気持ちを知られたらだめだって、ずっと……苦しくて」
葉月の目からぽろっと涙がこぼれた。私まで泣きそうになる。
「でも紅子ちゃんの言う通り、想いを伝えるくらいなら、いいのかな。結ばれなくても、想いを伝えるくらいなら……」
「もちろんだよ」
私は葉月の指先に絆創膏を巻き付ける。
「想いを伝えたらだめなんてことはない。それに……好きになったらだめなんてことも、ないと思うよ」
うつむいた葉月の目から、また涙が落ちた。私はそんな葉月の小指に、赤い糸をそっと結んだ。
どうか、どうか……葉月と先生が結ばれますように。葉月が苦しみませんように。
神さま……
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