第6話 織姫のシュークリーム

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「あっ」  その時、葉月の短い声が聞こえた。見ると葉月の指先から、赤い血がにじんでいる。 「大丈夫? 葉月!」 「うん。平気。カッターで切っちゃったみたい。ドジだね、私」 「待ってて、いま絆創膏出すからね」  私はカバンをごそごそとあさる。私のカバンの中にもシュークリームが入っている。 「紅子ちゃん……」  絆創膏を取り出した私に、葉月がぽつりと言う。 「私ね、何度もあきらめようとしたの。私の好きな人は、私が好きになっちゃいけない人だから……」  私の胸がぎゅうっと痛くなる。  葉月はほんの少し笑って、誰もいなくなった図書室で、私にせつない想いを打ち明ける。 「彼ね、私の幼なじみなの。十歳も年上なんだけど」 「えっ」  それは知らなかった。 「彼、すごくやさしい人でね。ずっとお兄ちゃんみたいに思ってたんだけど、いつの間にか好きになっちゃってて……でもあきらめなきゃだめだ。この気持ちを知られたらだめだって、ずっと……苦しくて」  葉月の目からぽろっと涙がこぼれた。私まで泣きそうになる。 「でも紅子ちゃんの言う通り、想いを伝えるくらいなら、いいのかな。結ばれなくても、想いを伝えるくらいなら……」 「もちろんだよ」  私は葉月の指先に絆創膏を巻き付ける。 「想いを伝えたらだめなんてことはない。それに……好きになったらだめなんてことも、ないと思うよ」  うつむいた葉月の目から、また涙が落ちた。私はそんな葉月の小指に、赤い糸をそっと結んだ。  どうか、どうか……葉月と先生が結ばれますように。葉月が苦しみませんように。  神さま……
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