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「これっ、受け取ってください! 私、慧ちゃんのことが好き!」
私は机の下でその声を聞く。こっちまで顔が赤くなりそうだ。いやいや、それよりも早く、あの糸の先を先生の小指に結ばなきゃ。
「葉月……俺は……」
その時私の後ろからすっと手が伸びた。そして私のつかめなかった糸をつかんで、それをそっと先生の小指に巻き付ける。
「へたくそ」
驚いて振り向いた私の後ろで、恋野くんがにっと笑った。
「いいの! だめなのはわかってる。私はただこの想いを伝えたかっただけなんだから!」
「いや、その……まいったな……」
先生がすうっと手を上げて、頭をかいた。その小指には赤い糸がつながっている。
「葉月からそんなことを言われるとは思ってなくて……」
「だからほんとにいいの! 私が言いたかっただけで……」
「違うんだよ。それは俺が言おうとしていた言葉だから」
「え……」
葉月がシュークリームを持ったまま、顔を上げる。先生は困ったように笑って、そっと葉月の手からシュークリームを受け取った。
「俺も言おうと思ってた。葉月が学校を卒業したら」
「慧ちゃん……」
「葉月のことが好きだって。結婚しようって」
葉月の顔がかあっと赤くなる。私もなぜか力が抜けて、そのまま後ろに倒れてしまった。
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