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「ふわぁ、ひどい目にあったぜ」
私の後ろで声がする。振り返ると茶髪男が、猫の毛のついた制服をぱたぱたと払っていた。
ひどい目にあったのは、こっちのほうなんですけど。
「まったくあの猫、なんなんだよ」
「あのぅ……」
おそるおそるつぶやくと、顔を上げた男が私のことをにらみつけた。
「あ」
私は小さく声をもらす。その人の顔には、ひっかかれた傷跡があったから。頬に三本、赤い筋が通っていて、じんわりと血がにじんでいる。
「あの、それって猫にやられたんですか? それとも喧嘩ですか?」
つい聞いてしまったら、茶髪男が冷たい目つきのまま首をかしげた。
「そういえばお前、さっき俺たちのこと見てたよな?」
やばい。まずかったかな。
「み、見えただけです!」
ふんっと鼻を鳴らして、茶髪男はひっかかれた頬をさする。
「今日はサイアクだ。歩いてただけで、他校のやつらに絡まれるし。ま、適当にあしらったけど」
適当にって……相手三人もいたのに。
「そんで腹が減ったから、あそこにあったチョコ食ったら、へんな猫に追いかけられるし」
「ええっ! あのチョコ食べたんですか!」
男がまた私をにらむ。
「ああ? 食っちゃ悪かったか?」
「だってそれ私が……」
桜庭先輩に作ったもの……だけど、もういらないから神さまにあげたもの。
茶髪男が、不審そうに私を見る。
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