第1話 猫神さまと運命の赤い糸

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「ふわぁ、ひどい目にあったぜ」  私の後ろで声がする。振り返ると茶髪男が、猫の毛のついた制服をぱたぱたと払っていた。  ひどい目にあったのは、こっちのほうなんですけど。 「まったくあの猫、なんなんだよ」 「あのぅ……」  おそるおそるつぶやくと、顔を上げた男が私のことをにらみつけた。 「あ」  私は小さく声をもらす。その人の顔には、ひっかかれた傷跡があったから。頬に三本、赤い筋が通っていて、じんわりと血がにじんでいる。 「あの、それって猫にやられたんですか? それとも喧嘩ですか?」  つい聞いてしまったら、茶髪男が冷たい目つきのまま首をかしげた。 「そういえばお前、さっき俺たちのこと見てたよな?」  やばい。まずかったかな。 「み、見えただけです!」  ふんっと鼻を鳴らして、茶髪男はひっかかれた頬をさする。 「今日はサイアクだ。歩いてただけで、他校のやつらに絡まれるし。ま、適当にあしらったけど」  適当にって……相手三人もいたのに。 「そんで腹が減ったから、あそこにあったチョコ食ったら、へんな猫に追いかけられるし」 「ええっ! あのチョコ食べたんですか!」  男がまた私をにらむ。 「ああ? 食っちゃ悪かったか?」 「だってそれ私が……」  桜庭先輩に作ったもの……だけど、もういらないから神さまにあげたもの。  茶髪男が、不審そうに私を見る。
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