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「おっ、うまそうじゃん」
恋野くんはがさがさと袋の中からシュークリームを取り出して、いきなり食べた。
「うん、うまい」
「それほとんど、春菜が作ったから」
私が作ったわけじゃないもん。
「でもお前だって1パーセントくらいは貢献したんだろ?」
「ちょっ、1パーセントって……せめて10パーセントって言ってよ!」
私が怒ったら恋野くんがおかしそうに笑った。あれ、なんだか今日は機嫌がいいみたい。
その時私は思い出した。さっき春菜が言っていた言葉を。
「あっ、ちょっと待って! やっぱりそれ食べちゃダメ!」
「は? もう食っちゃったよ」
恋野くんが最後の一口を口に放り込んで言う。
「そんなぁ……」
だって、だって……学校で作ったシュークリームをあげたら、その二人はくっついちゃうんだよ……
「恋野くん、シュークリームの噂、知らないの?」
「シュークリームの噂? なんだそれ」
恋野くんがあきれたように歩き出す。私の指から赤い糸が、恋野くんに向かって伸びていく。
食べちゃったのは仕方ない。噂なんてしょせん、この学校の生徒が作ったもの。それより信じるべきは、神さまが結んだこの赤い糸。
だったらこの糸さえ切れてしまえば、私が恋野くんとくっつくことはありえない。
「あ、あとさ」
昇降口まで歩いて、恋野くんが振り返った。
「傘入れて」
「は?」
「俺、傘持ってないから。傘入れて」
外はざあざあと音を立てて雨が降っている。私は小さくため息をつきながら、カバンの中から折りたたみの傘を取り出した。
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