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「じゃあさ、紅子ちゃんはきょうだいっているの?」
「いえ、一人っ子です」
「あー、なんかわかる! 両親に大事に育てられたって感じする!」
昼休みの中庭。お弁当を食べる私と恋野くんの間に、最近一人の女の人が入ってくるようになった。
『朝丘虹乃』さん。私より一つ年上の三年生。
明るいショートヘアはくるくるとしたくせ毛で、カラフルなヘアピンをたくさんつけていて、制服のブレザーの代わりにいつもピンクのカーデガンを着ている人。
明るくておしゃべりで、ころころ表情が変わって、なんていうか……名前の通り虹みたいな人だ。
そしてよくわかんないけど、恋野くんのお友だちらしい。
「虹乃ー、お前うるせぇよ。どっか行け」
「は? 私は紅子ちゃんとおしゃべりしてるだけじゃん。大雅こそどっか行きなよ」
恋野くんはブスっとした顔で、食べ終わった焼きそばパンの袋をぐしゃっとつぶす。
「じゃあさ、じゃあさ、紅子ちゃんは」
そんな恋野くんにはお構いなく、また虹乃さんが話しかけてきた。
「好きな人って、いるの?」
心臓がなぜかどきんとする。
「えっと……」
虹乃さんがくりくりした丸い目で、私のことをじっと見ている。
すると古いベンチをぎしっと揺らして、恋野くんが立ち上がった。
「俺、どっか別のとこで寝る」
「あっそ、じゃ、ばいばーい!」
じろっとにらみつけた恋野くんに、虹乃さんはにこにこしながら手を振っている。恋野くんは「ちっ」と舌打ちして、どこかへ行ってしまった。
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