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『そしてその者の想い人は、『恋野優雅』にゃ』
「は?」
今度は恋野くんが声を出した。そして早口で言いまくる。
「いやいやいや、それありえねぇから。虹乃がそんなやつ好きになるはずないし、優雅にはちゃんと彼女がいるし。なにかの間違いだろ? そうに決まってる」
『間違いなどではないにゃ。その女がその男と結ばれることを望んだのにゃ』
「望んだって、他の女と付き合ってるやつとは付き合えないだろ? あ、ほらあの赤い糸。優雅にはすでにつながってるはずだから」
『糸は切れることがあるのにゃ。いまつながっている糸が切れれば、また新しい者とつながれるのにゃ』
「じゃあ、優雅さんはいまの彼女と別れるってことですか?」
私は昨日、虹乃さんに聞いた言葉を思い出す。
『兄貴のほうには絶対別れなさそうな彼女がいたから』
絶対別れなそうな彼女。そう言ったのは虹乃さんなのに……どうして?
「いや、それは絶対ない」
私の隣で恋野くんが言い切った。いつもよりずっと低い声で。
「あの二人が別れるとか、絶対ないから」
猫神さまは高い場所から恋野くんのことを見下ろしてから、ぱっと肉球のついた手を広げ、私たちへ赤い糸を放った。
『ニャーは頼まれると断れない性格なのにゃ。だから頼まれた願いは叶えてあげるのにゃ。お前たちは神さまの言う通り、働いていればよいのにゃ』
咄嗟に開いた私の手のひらに、赤い糸がふわっとのった。
「でも……」
私はどうしたらいいのかわからず、恋野くんのほうを見た。
恋野くんはじっと考え込むような顔つきで、なにも言い返そうとはしなかった。
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