第7話 絡まり合う心

7/26
前へ
/185ページ
次へ
『そしてその者の想い人は、『恋野優雅』にゃ』 「は?」  今度は恋野くんが声を出した。そして早口で言いまくる。 「いやいやいや、それありえねぇから。虹乃がそんなやつ好きになるはずないし、優雅にはちゃんと彼女がいるし。なにかの間違いだろ? そうに決まってる」 『間違いなどではないにゃ。その女がその男と結ばれることを望んだのにゃ』 「望んだって、他の女と付き合ってるやつとは付き合えないだろ? あ、ほらあの赤い糸。優雅にはすでにつながってるはずだから」 『糸は切れることがあるのにゃ。いまつながっている糸が切れれば、また新しい者とつながれるのにゃ』 「じゃあ、優雅さんはいまの彼女と別れるってことですか?」  私は昨日、虹乃さんに聞いた言葉を思い出す。 『兄貴のほうには絶対別れなさそうな彼女がいたから』  絶対別れなそうな彼女。そう言ったのは虹乃さんなのに……どうして? 「いや、それは絶対ない」  私の隣で恋野くんが言い切った。いつもよりずっと低い声で。 「あの二人が別れるとか、絶対ないから」  猫神さまは高い場所から恋野くんのことを見下ろしてから、ぱっと肉球のついた手を広げ、私たちへ赤い糸を放った。 『ニャーは頼まれると断れない性格なのにゃ。だから頼まれた願いは叶えてあげるのにゃ。お前たちは神さまの言う通り、働いていればよいのにゃ』  咄嗟に開いた私の手のひらに、赤い糸がふわっとのった。 「でも……」  私はどうしたらいいのかわからず、恋野くんのほうを見た。  恋野くんはじっと考え込むような顔つきで、なにも言い返そうとはしなかった。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加