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「まだこんなところにいるのか? 授業始まるぞ?」
それは恋野くんのお兄さんの優雅さんだった。図書室から出てきたのか、難しそうな本をたくさん脇に抱えている。
だけど恋野くんは優雅さんのことを見ようとしない。優雅さんは小さくため息をつく。
「お前がサボるのは勝手だけど、この子まで付き合せるなよ」
そして優雅さんは私を見てやさしく言った。
「授業始まるから。早く戻ったほうがいいよ」
「あ、はい」
優雅さんがすっと後ろを向いて、また渡り廊下のほうへ戻り始める。
その時だった。私の目に、見慣れたものが見えたのは。
「え?」
どうして? どうしてあれが見えるの?
本を持った優雅さんの小指。そこから赤い糸が長く伸びている。
私たちは優雅さんの縁結びなんかしていない。だから優雅さんの赤い糸が、私に見えるはずがない。
それなのにどうして……
「こ、恋野くん!」
私はあわてて恋野くんの肩をゆさぶる。
「いまっ、見えなかった? お兄さんの赤い糸!」
「は?」
恋野くんが顔をしかめる。
「見えたでしょ? 赤い糸がつながってたの!」
恋野くんはどうでもいいように私から顔をそむけた。
「もう行けよ、教室」
「でも恋野くんは……」
「俺はいいから。早く行け!」
恋野くんが怒鳴るから、私はびくっと肩を震わせて、走って教室に向かった。
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