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「そ、そうだよ。親戚のお見舞いに来てたの。それで偶然結衣さんに出会ったの」
「ふうん?」
「恋野くんは……結衣さんと幼なじみなんだってね?」
話をそらすようにそう言うと、恋野くんが不満そうに答えた。
「そうだけど、悪い?」
「ちょっと大雅。どうして紅子ちゃんにそんな言い方するの?」
いつもこうなんですけど……結衣さんの前では違うのかな?
恋野くんは結衣さんに向かって、持っていた箱を差し出した。
「これ。結衣が食べたがってたケーキ」
「わぁ、買ってきてくれたの? うれしい! ありがとう」
恋野くんの手から結衣さんの手に、ケーキの箱が渡される。
このケーキ屋さんって、すごく人気があって、並ばないと買えないところだ。恋野くん、結衣さんのために並んで買ってきてあげたのかな……
なんだか胸の奥がきりきりする。
恋野くんって、きっと結衣さんにはやさしいんだ。
「じゃ、俺は帰るから」
「え、もう帰っちゃうの?」
「それ渡しに来ただけだし。来週には退院できるんだろ?」
「うん」
「よかったじゃん」
結衣さんがちょっと戸惑うような表情をする。恋野くんはそんな結衣さんを励ますように言った。
「学校で待ってるから。ちゃんと来いよ」
そして後ろを向いて、さっさと病室を出て行ってしまう。
「あ、私も……」
咄嗟に私も言ってしまった。
「ごめんなさい、結衣さん。私も帰ります。あの、また学校で会いましょう」
「そうね。ありがとう、紅子ちゃん」
結衣さんが静かに笑って、手を振ってくれた。私も手を振って、急いで外へ出た。
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