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「結衣ってさ……」
やがて恋野くんがぽつりとつぶやいた。私から顔をそむけて、橋の欄干に手を乗せながら。
ゆるやかな川の流れは夕日を浴びて、キラキラと光っている。
「小さい頃から病弱で、おとなしくて人見知りで、いつもいじめっ子にいじめられては泣いてたんだ」
私は恋野くんの隣にそっと立つ。少し距離をあけて。欄干に乗せた恋野くんの指からは、細い糸が伸びている。
「俺は結衣を泣かせたやつらを追いかけて、ぶん殴って泣かせてやった。結衣に笑って欲しかったから」
恋野くんはそう言いながら、糸のついた手でくしゃくしゃと茶色い髪をかく。
「でもさ、俺が戻るといつも結衣の隣に優雅がいて……頭撫でられた結衣が、泣き止んで笑ってんだ。俺とおんなじ顔の優雅を見てさ」
橋の上から遠くをながめて、恋野くんがははっと力なく笑う。
「そんなの繰り返してるうちに、あいつら付き合い始めてた。俺、いままでやってきたことが全部バカみたいに思えて、だったらあいつらが嫌がることしてやろうって決めた。そんで、好きでもない子と付き合って、相手の子傷つけて……虹乃のことも……」
息を深く吸った恋野くんが、苦しそうにそれを吐き出す。
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