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「俺、わかってたから。きっと結衣は俺のこと軽蔑するけど、それでも心配してくれるってわかってたから。他のやつなんかどうでもいい。とにかく結衣に、俺のこと気にして欲しかったんだ」
私の胸が痛くなる。欄干の上に乗せた手を、ぎゅっと強く握りしめる。
「だけど高校入った頃、そんな自分が死ぬほど嫌いになった。こんなことしてもなにも変わらないのに……なにやってるんだろ、俺って……」
恋野くんが欄干の上に顔を伏せた。私はそんな恋野くんに言う。
「でも糸が切れれば……あの二人は別れるよ」
恋野くんの背中がかすかに揺れる。
「恋野くんは結衣さんの指に結ばれてる糸に、切れて欲しいと思わないの? あの糸が切れて、優雅さんが虹乃さんと結ばれれば、結衣さんはフリーだよ。恋野くんは結衣さんと付き合えるかもしれないんだよ?」
私は恋野くんの白いシャツを見つめる。
しばらく黙り込んだあと、恋野くんがゆっくりと顔を上げた。
「切れて欲しくないよ」
「どうして?」
「結衣は優雅のことが好きだから」
恋野くんが私の顔を見る。
「俺は結衣の悲しむ顔は見たくない」
ああ、そうか。そうだよね。
私もそう思ったから。桜庭先輩には幸せになって欲しいって思ったから。
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