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「じゃあ……やめようか」
私はポケットの中の赤い糸を取り出した。
「これを優雅さんと虹乃さんに結ぶの、やめちゃおうか」
「だけどそれだと……」
恋野くんが静かに自分の指を私に見せる。
「これ、切ってもらえなくなる」
「うん……」
猫神さまの言うことを聞かないと、私たちの糸はずっとつながったまま。
「でも恋野くんがいいなら……私はいいよ」
恋野くんがまた黙った。
「恋野くんのやりたいように、していいよ」
「だったら……」
私の持っている糸を、恋野くんが手に取った。そして川に向かって手を伸ばし、それをそっと手放した。
赤くて細い糸は、かすかな風にあおられながら、頼りなく流れの中へ落ちていく。
「この仕事放棄して、この糸も切ってもらう」
「え」
「あのクソ猫に頼んで、そうしてもらおう?」
恋野くんがそう言って、なんだか寂しそうに笑った。
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