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「なんで優雅と付き合おうなんて思ったんだよ」
虹乃さんはうなだれて、消えてしまいそうな声で答える。
「あんたのためだからだよ……」
そのまま虹乃さんは恋野くんの足元にしゃがみ込んだ。私はドアの陰で息をのむ。
「私が優雅と付き合って、あんたが結衣ちゃんとうまくいけば……あんたが喜ぶと思ったからだよ」
虹乃さんは自分の膝に顔を押し付ける。
「あんたがまた笑ってくれると思ったからじゃん!」
しゃがんで背中を丸めた虹乃さんは、かすかに体を震わせていた。恋野くんはそんな虹乃さんを、じっと見下ろしている。
「あーもう……私、バカみたい……」
「そうだな。お前バカだわ」
恋野くんの放った一言で、虹乃さんは勢いよく立ち上がった。ものすごく怒った顔で。
「は? あんたがそれ言う?」
「だってバカすぎだろ。俺なんかのためにどうしてそこまでしようとするんだよ」
「それはあんたのことがす……」
虹乃さんはそこで言葉を止めて、頬を赤く染め、恋野くんから顔をそむけた。
「もういいわ。バカバカしい。これから縁結びの神さまのとこ、行ってくる」
「なにしに?」
「私を優雅と付き合わせてくださいって言ったの、取り消してくる」
「そうしてくれ」
虹乃さんがもう一度恋野くんのネクタイをつかみ上げた。そしてこぶしを強く握りしめ、恋野くんのお腹を思いっきりどんっと殴る。
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