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「うえっ……」
「あんたやっぱクズだわ。死ねっ!」
「に、虹乃ー……」
虹乃さんが怒った顔のまま、廊下へ飛び出してきた。私はあわてて柱の陰に隠れる。虹乃さんは私に気がつくことなく、走って行ってしまった。
「おい……」
呆然とそれを見送っていた私に、化学室の中から声がした。
「いるんだろ? そこに」
あわてて中をのぞくと、お腹を押さえてうずくまっている恋野くんが言った。
「これでいいだろ?」
「これでいいって……」
「これで俺たちの仕事はなくなった」
「そうだけど……」
「あとはこれを切ってもらえばいい。今日の放課後、一緒に神社に行こう」
恋野くんが赤い糸のついた小指を見せて、にっと笑う。だけど私は笑えなかった。
「虹乃さんに謝っておきなよ? 恋野くんのためを思って、こんなことしようと思ったんだから」
「わかってるよ」
恋野くんが指を下ろして私に言った。
「あとでケーキ買って、許してもらう」
私は恋野くんの前で、深くため息をついた。
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