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その日の午後の授業は、まったく頭に入ってこなかった。
ノートの上で指を広げる。私の小指につながった赤い糸。机の上から床に落ちて、教室のドアから廊下に伸び、恋野くんのいる教室まで続いている。そしてその先は、恋野くんの小指につながっているんだ。
だけどそれも今日でおしまい。この糸を猫神さまに切ってもらえたら、私と恋野くんの縁も切れる。
私たちはもう、中庭でお弁当を食べることもないし、一つの傘に入って一緒に帰ることもないし、協力してなにかを成し遂げることもない。
私たちはなんのつながりもなくなるんだ。
ぼんやりと見た黒板の前で、赤星先生がなにかしゃべっている。チョークを持つ先生の小指から赤い糸が伸びていて、シャーペンを持つ葉月の指につながっている。
それを見ていたら、なんだかすごく泣けてきた。ノートの上に涙がぽたぽたと落ち、小さな染みをいくつもつける。
ほんとうはこの糸を切りたくない。ずっと恋野くんとつながっていたい。
でもそれは、恋野くんを縛り付けてしまうことになるから……だからそんなことは絶対言えない。
声を殺して泣きながら、糸のついた小指をそっと握る。
それと同時にチャイムが響いて、今日最後の授業が終わってしまった。
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