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「そういうわけで、この糸さっさと切ってくれ」
放課後、恋野くんと神社に行った。猫神さまを呼ぶと、すぐに出てきてくれた。
『たしかにさっき願い主がここにきたにゃ。願いを取り消して欲しいとにゃ』
「だろ? だから俺たちの仕事はなくなった。もうここまでこき使ったんだから満足だろ? そろそろ俺たちを解放してくれよ」
恋野くんの声を、ぼんやりと突っ立ったまま聞く。だけどそれは、どこか遠いところから聞こえてくるような気がした。きっと私が聞きたくないと思っているからだろう。
「なぁ、紅子もそうして欲しいだろ?」
恋野くんが私に言った。私はびくっと肩を震わせてから、「うん……」と小さくうなずく。
『わかったにゃ』
私ははっと顔を上げる。二本足で立った猫神さまが、高いところから私たちを見下ろしている。
『その糸いますぐ、切ってあげるにゃ』
「えっ……」
思わず声を上げていた。だってあの猫神さまが、素直に糸を切ってくれるなんて思っていなかったから。
だから心のどこかで期待していたんだ。この糸はそう簡単に切れることはないって……
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