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猫神さまは迷うことなく、「にゃあああ」と長く一回鳴いた。すると糸がつながった日と同じように強い風が吹き、木々がざわめき始めた。肩をすくめた私の前に、やっぱりあの日と同じ桜の花びらが一枚……ひらり。
「あ……」
その花びらが糸に触れた途端、それはぷつんとあっけなく切れた。そしてみるみるうちに糸は短く縮んで、やがて跡形もなく消えてしまった。
「にゃあ」
見ると普通の三毛猫が私たちを見上げてから、森の奥に走り去った。
私はなにもなくなった自分の小指を見下ろす。
「よかったな」
隣から声が聞こえた。顔を上げると恋野くんが、やっぱりなにもついていない指を私に見せた。
「これで紅子は自由だ」
私はぐっと唇を噛みしめる。なにかしゃべったら、泣いてしまいそうだった。
「じゃあ、俺帰るから。お前も気をつけて帰れよ」
なんとかこくんとうなずくと、恋野くんは私をじっと見てから、なにも言わないで神社を出て行った。
その姿が見えなくなると、私はすとんっと地面にしゃがみ込んだ。
もう一度、指を見る。なんにもついていない指。もう片方の手で触れてもこすっても、なにかついている感覚はない。
私と恋野くんの縁は、ぷっつりと跡形もなく、切れてしまったのだ。
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