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「紅子? おーい、紅子!」
声に気づいてはっとする。見ると私の机の周りに、春菜と葉月が立っていた。
「どうしたの、紅子。ぼうっとして」
「もう昼休みだよ? 中庭行かなくていいの?」
中庭……もう行かなくていいんだ。もう恋野くんと会う必要はないんだから。
「うん……」
「なんかへんだよ、紅子」
「うんうん、恋野先輩と喧嘩でもしたの?」
私は小さく首を振る。そんなんじゃないんだ。喧嘩のほうがまだよかった。
ぐすっと鼻をすすって、また涙が出そうになった時、私はそれに気がついた。
「え……」
目の前に見える春菜と葉月の小指に、赤い糸がついている。それはどこまでも長く伸び、教室の外へと続いている。
「糸っ……なんで見えるの?」
「え? 糸?」
「紅子ちゃん……大丈夫?」
春菜と葉月が心配そうに私を見る。
やっぱり見える。二人についている赤い糸。
私ははっと自分の手を見た。だけどもちろん、私の指にはついていない。
私たちの糸が切れて、猫神さまとも縁を切ったのに、私にはまだ赤い糸が見えるの? その能力だけは、まだ残ってるってこと?
もしかしたら恋野くんにも見えるのかな?
そう思ったらいてもたってもいられず、私は椅子から立ち上がった。
「ごめん、ちょっと中庭行ってくる!」
「あ、うん、いってらっしゃい……」
唖然としている二人を残し、教室を飛び出す。
私は恋野くんに会いたかった。昨日別れたばかりなのに、もう会いたくてたまらなかった。
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