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走って中庭についたけど、そこに恋野くんの姿はなかった。誰も座っていない、いつもの古ぼけたベンチがぽつんとあるだけ。
「もう……ここには来ないんだ……」
そうだよね。最初に恋野くんをここに呼び出したのは私だし。猫神さまからのミッションの作戦を立てる必要もないし。もう恋野くんがここに来る意味はないんだ。
がくんと肩を落として教室に戻ろうとした時、私の後ろの渡り廊下を誰かが通り過ぎた。ふと振り向くと、そこに優雅さんの姿が見えた。本を脇に抱えて、奥の校舎に向かっていく。
「え……」
私はその姿にくぎ付けになった。走って近づいて、もう一度目を凝らす。
本を抱えている優雅さんの指。そこについていた赤い糸が見えない。
「うそ……どうして?」
優雅さんが不思議そうな顔で振り向いた。
「あれ、君……今日は大雅と一緒じゃないの?」
私はいきなり優雅さんの手をとった。優雅さんがぎょっとした顔で私を見ている。
「ない……糸がない……どうして?」
「糸ってなに? 君、どうしたの?」
私は優雅さんの手を握りしめて聞く。
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