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「結衣さんはモノじゃないんです。だから二人とも、欲しかったとか、やるよとか、言わないでください。結衣さんにも気持ちがあります」
優雅さんが黙って私を見た。私の隣で恋野くんがつぶやく。
「結衣の気持ちは……いまでも優雅しか想ってないよ」
恋野くんの声に、優雅さんが静かに答えた。
「そうだとしても……僕にはもう自信がないんだ。いつか結衣の気持ちが離れてしまうんじゃないかって、大雅に向いてしまうんじゃないかって……ずっと、怖かったんだよ。いまでも怖い」
優雅さんは荷物を手に持つと、逃げるようにドアへと向かう。
「あっ、ちょっと待ってください! 優雅さん!」
引きとめようとして、恋野くんを見る。すると恋野くんもふらふらとその場に座り込んでしまった。
「こ、恋野くん?」
「……俺のせいなのか?」
さっきまであんなに威勢がよかったくせに、いまは力が抜けてしまったみたいにしょんぼりしている。
「俺のせいで、あいつ結衣と別れたのか?」
「それは……」
そうなのかもしれない。恋野くんが直接なにかをしたわけではないけど、優雅さんの中で、恋野くんの存在はすごく大きくて……自信をなくしてしまうほどで……
きっと優雅さんだってまだ、結衣さんのことを好きだと思うのに。
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