第8話 君が幸せになるように

9/23
前へ
/185ページ
次へ
「結衣さんはモノじゃないんです。だから二人とも、欲しかったとか、やるよとか、言わないでください。結衣さんにも気持ちがあります」  優雅さんが黙って私を見た。私の隣で恋野くんがつぶやく。 「結衣の気持ちは……いまでも優雅しか想ってないよ」  恋野くんの声に、優雅さんが静かに答えた。 「そうだとしても……僕にはもう自信がないんだ。いつか結衣の気持ちが離れてしまうんじゃないかって、大雅に向いてしまうんじゃないかって……ずっと、怖かったんだよ。いまでも怖い」  優雅さんは荷物を手に持つと、逃げるようにドアへと向かう。 「あっ、ちょっと待ってください! 優雅さん!」  引きとめようとして、恋野くんを見る。すると恋野くんもふらふらとその場に座り込んでしまった。 「こ、恋野くん?」 「……俺のせいなのか?」  さっきまであんなに威勢がよかったくせに、いまは力が抜けてしまったみたいにしょんぼりしている。 「俺のせいで、あいつ結衣と別れたのか?」 「それは……」  そうなのかもしれない。恋野くんが直接なにかをしたわけではないけど、優雅さんの中で、恋野くんの存在はすごく大きくて……自信をなくしてしまうほどで……  きっと優雅さんだってまだ、結衣さんのことを好きだと思うのに。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加