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「恋野く……」
「やめて!」
声を出そうとした私の隣で、結衣さんが叫んだ。そして二人のもとへ近づき、お互いの手を離す。
「大雅。私たちの心配をしてくれたんだよね? でももういいの。優雅の気持ちが離れてしまったのは、仕方がないから」
「違う! そうじゃない!」
恋野くんが結衣さんに言う。だけど結衣さんは首を横に振る。
「ほんとうに、もういいの。私は大丈夫だから」
結衣さんが静かに微笑んで、背中を向ける。
「結衣さん……」
「ごめんね。紅子ちゃん」
結衣さんはそう言い残し、薄暗い校舎の中に入っていく。
「大丈夫じゃないくせに……」
恋野くんがつぶやいた。
「大丈夫じゃないだろ!」
恋野くんが走り出し、見えなくなった結衣さんのあとを追いかける。
「恋野くん?」
私もあわてて校舎の中に駆け込む。
「え……」
見ると、階段の下に結衣さんが倒れていた。真っ青な顔をして。
「ゆ、結衣さん!」
どうしていいかわからず立ち尽くしてしまった私の目に、恋野くんの背中が見えた。恋野くんはなんの躊躇もなく結衣さんの体を抱き上げると、そのまま歩き出した。
「恋野くん!」
「保健室行ってくるから。心配するな」
背中を向けたまま、恋野くんが言った。私はその場に突っ立ったまま動けない。
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