第8話 君が幸せになるように

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「恋野く……」 「やめて!」  声を出そうとした私の隣で、結衣さんが叫んだ。そして二人のもとへ近づき、お互いの手を離す。 「大雅。私たちの心配をしてくれたんだよね? でももういいの。優雅の気持ちが離れてしまったのは、仕方がないから」 「違う! そうじゃない!」  恋野くんが結衣さんに言う。だけど結衣さんは首を横に振る。 「ほんとうに、もういいの。私は大丈夫だから」  結衣さんが静かに微笑んで、背中を向ける。 「結衣さん……」 「ごめんね。紅子ちゃん」  結衣さんはそう言い残し、薄暗い校舎の中に入っていく。 「大丈夫じゃないくせに……」  恋野くんがつぶやいた。 「大丈夫じゃないだろ!」  恋野くんが走り出し、見えなくなった結衣さんのあとを追いかける。 「恋野くん?」  私もあわてて校舎の中に駆け込む。 「え……」  見ると、階段の下に結衣さんが倒れていた。真っ青な顔をして。 「ゆ、結衣さん!」  どうしていいかわからず立ち尽くしてしまった私の目に、恋野くんの背中が見えた。恋野くんはなんの躊躇もなく結衣さんの体を抱き上げると、そのまま歩き出した。 「恋野くん!」 「保健室行ってくるから。心配するな」  背中を向けたまま、恋野くんが言った。私はその場に突っ立ったまま動けない。
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