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「大雅……お前、マジで頭大丈夫か?」
「まぁ、見えないやつには信じてもらえないだろうけど、いま結衣の小指には赤い糸がついている」
「えっ」
結衣さんが驚いたように自分の指を見つめている。
「まぁ、見えないだろうけど。俺たちには見えるわけ。な? 紅子」
優雅さんと結衣さんが私に注目する。私はおどおどとうなずきながら言う。
「そ、そうなんです。ほんとに私たちには見えるんです」
結衣さんがもう一度指を見た。私はその指につながれた糸を、そっと手の上にすくい上げる。
重さなんか感じられないほどの細くて赤い糸。だけど二人を結び付ける大事な糸。
「これを優雅さんの指に結び付ければ……二人は結ばれるんです」
優雅さんが黙って私を見つめる。私の手のひらの上の糸を、恋野くんが手に取った。
「優雅。手、貸して」
優雅さんは呆然と恋野くんの顔を見ている。
「俺が結んでやるから」
優雅さんの手がほんの少し動く。恋野くんはその手をそっとつかんで、丁寧に赤い糸を結び付ける。優雅さんはじっとその様子を見下ろしている。
「これで大丈夫」
恋野くんの声を、優雅さんは黙って聞いていた。
「大丈夫だから」
恋野くんが振り返り、もう一度言う。結衣さんの顔を見つめて。
結衣さんの目がじんわりと潤んで、静かにうなずく。そしてくしゃっと笑顔になって、恋野くんに言った。
「ありがとう。大雅」
恋野くんがずっと欲しかった結衣さんの笑顔は、恋野くんの目にどんなふうに映ったんだろう。
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