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二人を残して私と恋野くんは中庭を去った。昼休みが終わるまであと五分。二人が想いを伝え合うには充分時間はある。
「これで最後のミッションはクリアだな」
階段の下で恋野くんが言った。私の教室はここから廊下をまっすぐ、三年生の教室は階段の上だ。私たちはここでお別れ。
「うん。そうだね」
恋野くんが私を見た。なにか言いたそうな顔つきで。でもなにも言わないまま、私から顔をそむける。
「じゃあな」
「うん……」
私たちの指に、赤い糸はつながっていない。私と恋野くんは、今度こそ離れ離れだ。
恋野くんが階段をのぼっていく。私も背中を向けて廊下を歩く。
「あっ、紅子だ」
「おーい、紅子ちゃーん!」
廊下の向こうで春菜と葉月が手を振っている。小指についた赤い糸をキラキラさせて。
私は泣きそうになるのをぐっとこらえて、笑顔を作る。そして二人に向かって大きく手を振る。
だけど私の指には、やっぱり赤い糸はついてなくて。それが悲しくて、寂しくて。私は心の中で静かに泣いた。
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