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「あっ、久しぶりぃ、紅子ちゃん!」
梅雨が明けて、夏の日差しが照り付けるようになったお昼前、渡り廊下で虹乃さんに会った。
私は四時間目の化学の授業の片づけが遅くなってしまい、急いで教室に戻ろうとしているところだった。
虹乃さんは誰もいない中庭をちらっと見てから私に言う。
「最近あそこでお昼食べないんだね? 大雅と」
「え、あ、はい」
「喧嘩でもしたの?」
虹乃さんが私の顔をのぞきこんでくる。私は首を横に振る。
「そういうんじゃないんです」
「じゃあどうして? あんなに毎日一緒にいたのに」
困った私の前で、虹乃さんが言う。
「大雅ってさぁ、最近なんか変わったよ。見た目も変わったし、授業もサボんなくなったし、喧嘩もしなくなったみたい。結衣ちゃんが復学して、優雅ともラブラブで、あいつどうなっちゃうんだろうって思ってたけどね」
私は黙って顔を上げる。もう恋野くんにはずっと会っていない。同じ学校にいるのに、不思議と偶然会うこともなくなった。これが「縁が切れた」っていうことなのかも。
「ただあいかわらずつまんなそうにしてるよ。ていうか、ぼうっとしてる。結衣ちゃんにフラれて本格的に生きる気なくしたか、もしくは……」
虹乃さんが指を唇に当てて言う。
「新しい恋に落ちたか」
「えっ!」
私は思わず声を上げてしまった。虹乃さんが私をじっと見て、それからにっと笑いかける。
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