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「わかったよ」
そんな私の前で男がつぶやく。
「とにかく、この猫さまの言うこと聞きゃあいいんだろ。さっさとそのミッション終わらせて、この糸切ってもらおうぜ」
泣きながら顔を上げると、茶髪男と目が合った。そのほっぺたには、私のあげた絆創膏がついている。
『わかればよいのにゃ。ではさっそくニャーの仕事を手伝ってもらうにゃ』
「さっさと教えろ。その仕事ってやつを」
私はひやひやしながら、茶髪男を見る。いくらなんでも、神さまにその口のきき方はひどすぎる。
猫神さまは小さくため息をつくと、肉球のついた手を広げ、ふわっと私たちの前に赤い糸を放った。茶髪男がその糸を、右手でキャッチする。
『ニャーの仕事は、人間の恋愛の縁結びにゃ。この神社で願った者の、縁を結んであげるのにゃ』
「こんなところに来るやつなんかいるのか?」
きょろきょろと周りを見回しながら、茶髪男が言う。私もそう思ったけど、口には出さない。出せるわけない。
猫神さまはちょっと顔をしかめたけど、相手をせずに続ける。
『縁を結ぶ方法は、その糸の先を、それぞれの小指に結んでやればよいのにゃ。ちなみにその糸は、お前たち以外の人間には見えないにゃ』
私は茶髪男が持っている、まだ誰にもつながっていない糸を見つめる。
『今回縁を結ぶ男女の名前を言うからよく覚えるにゃ。男のほうはこの神社に願いに来てくれた人間にゃ』
男の人のほうが神頼みにきたのか。ちょっと意外と思いながら次の声を聞く。
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