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『男の名前は……『桜庭光』というにゃ』
「えっ」
私は思わず声を上げた。
「桜庭……先輩?」
心臓がドキドキと音を立てる。震え出す手をぎゅっと握る。そんな私の顔を、茶髪男がちらっと見てからつぶやいた。
「バスケ部の桜庭だな」
「し、知ってるの?」
「ああ、知ってるよ。同じクラスだし」
「うそぉ……」
ていうことは、この人は先輩と同じ二年生か。すると猫神さまが、こほんと咳ばらいをして私たちに告げる。
『その男の想い人の名前を言うにゃ』
私はごくんと唾を飲み込んだ。
先輩の想い人。先輩の好きな人。先輩と……これから縁が結ばれる人。
『女の名前は……『南春菜』にゃ』
「え……」
私は口を開いたまま呆然とした。
「南……春菜……」
茶髪男が私に聞く。
「知ってんの?」
私は静かにうなずいた。
「私の……親友だから」
茶髪男は黙って私を見ていた。私はそっと視線をそむけてうつむいた。
耳に、昨日聞いた先輩の声が聞こえてくる。
『ごめん。俺、好きな子がいるから』
先輩の好きな子って……春菜のことだったんだ。
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