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教室の中は、もうほとんどの生徒がそろっていた。私は息を切らしながら、周りを見回す。すると席に座っていた春菜が立ち上がり、私に駆け寄ってきた。
「紅子!」
「春菜……」
胸がぎゅっと痛くなる。無理やり笑顔を作ろうとしたけど作れない。
今日、うまくいけば、先輩と春菜は結ばれる。ていうことは、春菜もすでに先輩のこと……
「紅子……大丈夫?」
春菜が心配そうに私に聞いた。私は「大丈夫だよ」とできるだけ明るく言う。だけど心の中は真っ暗だ。
春菜は今まで、自分の好きな人の話をしなかった。だから私は、春菜には好きな人がいないんだと思い込んでいた。でも本当はずっと前から、先輩のことが好きだったんじゃないの? それなのにずっと私に黙って……実は私の応援なんかしたくなかったくせに。
そんな想いが湧き上がってきて、私はあわてて首を横に振る。春菜が私のことを、やっぱり心配そうに見つめている。
違う。春菜はそんな子じゃない。
去年の春、先輩を好きになった私。先輩と同じバスケ部の春菜にいっぱい協力してもらった。優しくて親切な春菜に頼りっぱなしだった。
告白する前だって春菜にたくさん相談しちゃって、春菜は悩みながらも真剣に答えてくれた。そしていつだって心から応援してくれていた。
それなのに私は……自分のことで精一杯で、春菜の気持ちなんか一度も考えたことがなかった。
春菜には好きな人なんかいないんだろうって、勝手に決めつけていた。
そんな私に、春菜が自分の気持ちを打ち明けられるはずはない。
「春菜……あの……」
言いかけた私の耳にチャイムが響く。私たちは仕方なく席に着く。だけど胸の中がずっと苦しくて、授業どころではなかった。
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