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あとはこの糸の先を、桜庭先輩の小指に結び付ければいいだけだ。
放課後、春菜と一緒に中庭に向かいながら、私は胸をドキドキさせていた。緊張と不安でいっぱいだけど、なんとかこのミッションを成功させたいと思っていた。
中庭の手前の渡り廊下で、私は春菜に告げる。
「じゃあ私は教室で待ってるね」
「う、うん」
緊張した顔つきの春菜が、チョコレートを胸に抱きしめ私に言う。
「ありがとう。紅子」
私はうなずいて春菜を見送る。それからすぐに庭の茂みの中に隠れて様子を伺う。
「あ……」
中庭の奥の方に、桜庭先輩が立っていた。昨日のことを思い出し、私の胸がぎゅっと痛くなる。
「おい」
突然肩を叩かれた。びくっと振り返ると、恋野くんが私の後ろで、背中を丸めてしゃがみ込んでいる。恋野くんは私よりずっと背が高いから、すごく窮屈そうだ。
「糸、結んでおいたか?」
「う、うん」
「じゃああとは桜庭の指に結ぶだけだな」
「でもどうやって……」
春菜が先輩に駆け寄って、恥ずかしそうに立ち止まった。先輩も照れたように、頭をかいている。
「こっちこい」
恋野くんが私のブレザーの裾を引っ張った。私はしゃがんだまま、恋野くんのあとについて行く。二人でこそこそと茂みの中を進み、恋野くんは先輩たちのそばまで来て、動きを止めた。
「ここから手を伸ばして、糸を結ぼう」
「ええっ、そんなの見つかっちゃうよ」
「大丈夫。あいつら緊張してるからきっと気づかない」
見ると春菜も先輩も、向き合って突っ立ったまま固まっている。石像のようにガチガチだ。
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