第2話 涙のファーストミッション

10/16

129人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
「よし。俺がやる」  恋野くんが手を伸ばす。だけどそよそよと吹く風が赤い糸を漂わせ、つかむことができない。 「つ、つかめねぇ……」  恋野くんの手が何度も空を切る。糸は恋野くんの手から逃げるように、ふらふらと風に揺れている。 「は、春菜……あの、俺……」  頭の上から桜庭先輩の声が聞こえてきた。緊張しているのか、少し震えている。私と向かい合った時とは全然違う。 「くそっ、もうちょっとなのに……」 「わ、私がやる!」  私は茂みの中から思いっきり手を伸ばした。そして目を閉じたまま、その手をぎゅっと握りしめる。 「ナイス! 紅子!」  隣から恋野くんのささやき声が聞こえた。目を開くと私の手が、赤い糸をしっかりとつかんでいる。  あとはこれを桜庭先輩の小指に結んで……そう思った瞬間、今度ははっきりとした、先輩の声が聞こえてきた。 「俺、春菜のこと、ずっと前から好きだったんだ」  ぐさっと胸になにかが刺さった。握りしめた手がかすかに震える。  先輩が春菜に告白している。春菜のことを「好き」って言ってる。  じわっとあふれそうになる涙を、寸前でこらえた。だけど私の手は、赤い糸を握ったまま動けない。  早く、早く、これを結んであげなきゃ。  先輩には好きな人と結ばれて欲しい。私みたいに悲しい想いはして欲しくない。
/185ページ

最初のコメントを投稿しよう!

129人が本棚に入れています
本棚に追加