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その時ぐっと、強い力で手をつかまれた。はっと振り向くと、後ろにいた恋野くんが私の手をつかんでいる。
「あとは俺がやる」
「え……」
私の手から、恋野くんが糸を受け取る。そしてそのまま、茂みの中から立ち上がった。
「えっ、なに? 恋野?」
先輩がぎょっとした顔で、突然現れた恋野くんを見る。春菜もびっくりした表情でぽかんとしている。
「桜庭! 手を貸せ!」
「は?」
「いいから手を貸せ!」
ちぎれた葉っぱを頭や肩にのせたまま、恋野くんが先輩の手を握る。そしてその小指に、無理やり赤い糸を結び付けようとする。
ちょっとそれってどうなの? 今までの地道な苦労が水の泡じゃない。
「な、なにすんだよっ、お前っ、キモい!」
「いいから動くな! くそっ、やりづれぇな!」
私は茂みの中にしゃがみこんだまま、息をひそめてその様子を見つめる。
あの糸は私と恋野くん以外には見えない。だから他の人からは、先輩と恋野くんが手を握り合って、いちゃいちゃしているようにしか思えないだろう。
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