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「できた!」
恋野くんが嬉しそうに叫ぶ。それと同時に春菜が駆け寄り、恋野くんのことを突き飛ばした。
「やめてください! 桜庭先輩に触らないで!」
春菜に突き飛ばされた恋野くんが、植木をなぎ倒し、私のそばにしりもちをつく。私は思わず声を漏らしそうになり、あわてて口元を押さえ茂みの奥に隠れた。
「先輩っ、これっ!」
春菜が持っていた包みを先輩に差し出す。
「受け取ってください!」
先輩は春菜の前で呆然としている。
「私も……桜庭先輩のことが……好きです」
顔を真っ赤にした先輩が、春菜の作ったチョコレートを両手でそっと受け取った。
「ありがとう。嬉しい」
本当に嬉しそうに笑う先輩の前で、春菜も微笑む。
二人の小指と小指には、運命の赤い糸がしっかりとつながっている。
「いってぇな……」
私の前でしりもちをついている恋野くんがつぶやいた。私はそんな恋野くんの制服の袖を引っ張る。
「紅子?」
恋野くんが私を見た。私は恋野くんから顔をそむける。
だけど、こらえようとした涙が、どうしてもこらえられない。
私は恋野くんの袖をつかんだまま、声を出さずに泣いた。
恋野くんは黙って手を伸ばし、私の頭をぽんぽんっと軽く撫でてくれた。
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