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「あの糸、結ばないってこともできたのに」
恋野くんの声が耳に響く。だけど私は首を横に振る。
「いいの……たしかに春菜が先輩と付き合うのを見るのはつらいけど……でも仕方ない。私の運命の赤い糸は、先輩とつながってなかったってことだから」
恋野くんが自分の小指を見ながらつぶやく。
「仕方ない……か」
私も自分の指を見る。指に結ばれた赤い糸を目でたどれば、それは恋野くんの小指につながっている。あらためて見てみたら、なんだかすごく恥ずかしくなった。
「そ、それに、先輩と春菜をくっつけなかったら、この糸切ってもらえないんだから!」
「ああ、そうだった。それは困るな」
恋野くんは私を見て、明るい声で言った。
「じゃ、とにかく、これ切ってもらおうぜ!」
「うん、そうだね」
「さっさとこんなもんぶった切って、新しい男見つけろよ」
新しい男って……でも恋野くんの言いたいことはわかる。
「うん、そうする」
「じゃあとっとと行くぞ! あのうさん臭い猫神のとこに!」
恋野くんが私の手をとって、走り出した。私はちょっとどきっとしてしまう。
男の人に手を握られたことなんて、なかったから。
恋野くんと手をつないで、神社に向かって走った。
私たちの小指と小指につながった赤い糸が、風にそよそよと揺れていた。
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