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「でも今でも信じられないなぁ」
体育館に並びながら、春菜がつぶやく。
もうすぐ壇上で、生徒会役員の挨拶が始まるようだ。ほとんどの生徒はあくびをしたり、面倒くさそうな顔をしているだけだけど。
「紅子とあの恋野先輩が、あんなに仲いいなんてね」
春菜は私を見てくすっと微笑む。私は春菜の隣で顔をしかめる。
「仲いいわけじゃないよ。仕方なく付き合ってるだけ」
「仕方なくって?」
春菜が首をかしげて私を見る。赤い糸の話は春菜にも言ってない。
だって春菜に話したら、私たちが陰でこそこそ二人をくっつけようとしていたのがバレてしまう。それに桜庭先輩だって、こっそり縁結びの神さまに神頼みしていたなんて、春菜に知られたくないかもしれない。
春菜の指に赤い糸が見える。長く伸びているその糸は、体育館のどこかにいる桜庭先輩とつながっている。
だけど私には、他の人の糸は見えない。学校には付き合っているカップルがたくさんいるから、他にも赤い糸が結ばれているはずなんだけど。
私と恋野くんに見えるのは、私たちが縁を結んだ人の糸だけなんだ。
私はさりげなく春菜から視線をそらしてごまかした。
「まぁ、いろいろあってね……」
春菜は納得してないような顔をしながらも、「ふうん」とつぶやく。
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