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「はっ、ビビッて声も出ないわけ? じゃあ俺、このままあんたのこと襲っちゃおうかなぁ?」
恋野くんがふっと笑って、会長に顔を近づけた。
え、ちょっと待って、演技だよね? 本当に演技だよね?
私はあわてて梅谷先輩の腕をつかんだ。
「先輩! いいんですか! このままじゃ、会長が襲われてしまいますよ!」
「……大丈夫だよ」
先輩がぽつりと言って、ドアから離れた。
そんな……どうして?
「椿は強いから大丈夫だ」
「え?」
次の瞬間、部屋の中で「うわっ」と悲鳴のような声が上がった。急いで中をのぞくと、会長が柔道のような技で、恋野くんを投げ飛ばしたところだった。
恋野くんの体が椅子や机にぶつかり、床に投げ出される。
「いっ……てぇ……」
「ほらね」
恋野くんのうめき声と、梅谷先輩の乾いた声が同時に聞こえた。
「椿は強いんだ。誰にも頼らず、なんでもできる。僕なんかがいなくても大丈夫」
梅谷先輩は一瞬寂しそうに口元をゆるめたあと、私の顔をじっと見た。
「君、どこかで見たことがあると思ったら、大雅と一緒にランチしてる子だよね? どういう理由でこんなことをしてるのか知らないけど、僕たちをからかうのはやめてくれないかな?」
先輩がそう言って、私に背中を向ける。私はぎゅっと両手を握り、先輩の背中に叫ぶ。
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