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「ちょっと待ってください!」
梅谷先輩が立ち止まった。
「先輩をだましたのは悪いと思ってます。ごめんなさい。でも椿会長はそんなに強くないです。さっきだって本当は怖かったと思います」
先輩がゆっくりと私に振り返る。
そう、会長はそんなに強くない。誰にも頼らずなんでもできるんだったら、縁結びの神さまに頼ったりしない。好きな人との縁が結ばれますようになんて、お願いをしない。
「梅谷先輩は逃げてるだけなんじゃないですか? 椿先輩から、逃げてるだけなんじゃないですか?」
「どうして僕が君に、そんなこと言われなきゃ……」
その時、部屋の中から大きな声が聞こえた。
「てめぇ、女だと思って手加減してりゃ、調子に乗りやがって!」
立ち上がった恋野くんがぐいっと強く、会長の腕をつかんだ。
「きゃっ……」
小さな悲鳴を上げた先輩の体が、もう一度壁に押し付けられる。
「かわいくねぇんだよ! お前は全然っ」
その言葉に、会長の顔がひどく歪んだ。いままで見たことのないような、哀しそうな顔……
「恋野くん!」
私は耐えきれずに部屋に飛び込んだ。
「もうやめ……」
言いかけた私を押しのけて、梅谷先輩が会長の前に立ちはだかる。
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