129人が本棚に入れています
本棚に追加
/185ページ
「椿に謝れ」
梅谷先輩が低い声で恋野くんに言った。
「梅谷くん……」
会長が潤んだ目で、梅谷先輩の背中を見つめる。
「今の発言は間違ってる。撤回しろ」
「は?」
「椿は強いけど、かわいくないわけじゃない。だから撤回しろ!」
眉をひそめた恋野くんに向かって、梅谷先輩が細い手を振り上げる。だけどその手は簡単に、恋野くんにつかまれてしまった。
「紅子!」
恋野くんが私を見た。私ははっとしてそこへ駆け寄る。そして素早く会長の指にぶら下がっている糸をすくい上げると、恋野くんがつかんでいる梅谷先輩の指にそれを結び付けた。
「やめて!」
会長の泣きそうな声が後ろから響く。梅谷先輩が息をのんで腕をおろし、恋野くんもその手を離す。
すると次の瞬間、会長が梅谷先輩の背中に抱きついた。
「梅谷くん……来てくれたのね」
「え、あ、ああ……」
「……うれしい」
会長が梅谷先輩にしがみつき、先輩はあせったように視線を泳がせる。そして戸惑いながら会長に言う。
「も、もう、僕が来たから大丈夫だ」
「うん……ありがとう。梅谷くん……」
恋野くんが「ちっ」と舌打ちをしたのがわかった。
「やってらんねぇ、行くぞ、紅子」
「う、うん……」
生徒会室から出て行く恋野くんのあとを追う。
ドアのところでそっと振り返ったら、椿先輩と梅谷先輩が見つめ合っていた。
二人の小指にはしっかりと、赤い糸がつながっていた。
最初のコメントを投稿しよう!