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「じゃあお前偵察してこい」
恋野くんに命令されて、私は休み時間に隣のクラスをのぞいてみた。すると突然、後ろから声をかけられてしまった。
「あれ、花園さんじゃない?」
もしかしてこの声は……
「湊くん!」
「ひさしぶり。クラス離れちゃったからね」
「う、うん」
湊くんはこんなふうに誰にでもにこにこ話しかけてくれる、とても感じがよい人。いつもむすっとしている誰かさんとは大違いだ。
「どうしたの? うちのクラスになにか用?」
「え、ううん、たいしたことじゃないんだけど……」
私はどうしようか迷ったあと、思い切って聞いてみた。
「『早瀬凪』さんって人、どの子かな?」
「え、早瀬凪?」
湊くんがちょっと驚いた顔をする。でもすぐににっこり笑って、教室の中を指さした。
「あいつがそうだよ。早瀬凪」
湊くんが指さした先にいるのは、席に座って一人で本を読んでいる男の子。
「えっ、は? あ、あのっ、あの人が早瀬凪……くん?」
「うん。そう。呼ぼうか?」
「い、いえっ。けっこうです。ありがとう!」
私は湊くんに背中を向けて、逃げるように走り去った。怪しいと思われたかもしれないけど、胸の奥がドキドキして、そのまま三年生の教室まで走った。
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