第1話 猫神さまと運命の赤い糸

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 でもここでしばらく泣いていたら、ちょっとは落ち着いた気がする。  私はずっと手に持っていたチョコレートを見下ろした。昨日先輩のために作ったチョコレート。先輩が食べてくれることを信じて、春菜に協力してもらいながら、頑張って作ったんだけど……受け取ってもくれなかった。  でも受け取ってもらって、なにかを期待しちゃうよりは、「好きな子がいる」ってはっきり言ってもらえてよかったのかも。  きっとそれが桜庭先輩のやさしさなんだ。フラれちゃったけど、素敵な先輩を好きになってよかったって、あらためて思える。  また出そうになった涙をこらえて、私はお社の前にチョコレートを置いた。  こんな崩れ落ちそうな神社に、神さまなんかもういないような気がするけど、持っていても仕方ないし、ここにお供えして神さまに食べてもらおう。  その時、道からはずれた森の奥で人の声がした。怒っているような声だ。  おそるおそる太い木の影から見てみると、数人の男の人が怒鳴り合っている。
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